法律Q&A

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みなし割増賃金利用上の留意点

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2011年01月:掲載

改正労基法による人件費上昇への対抗策として、また、名ばかり管理職問題への代替的切りは、みなし割増賃金制度の導入か?

改正労基法による人件費上昇への対抗策として、また、名ばかり管理職問題への代替的切り札として、みなし割増賃金制度の導入があると聞きましたが、それはどのような制度で、その制度導入上の留意点はどのような点でしょうか?

改正労基法による人件費上昇への対抗策として、また、名ばかり管理職問題への代替的切り札として、みなし割増賃金制度の導入が検討されるべきです。

 みなし割増賃金とは、名目のいかんに拘わらず、一定の割増賃金相当のみなし割増賃金(以下、みなし手当ともいう)が支払われている場合、そのみなし手当でカバーされる範囲内の時間外・休日・深夜労働については割増賃金を支払わない制度です。留意点は、最賃法抵触を回避したみなし割増賃金に関する賃金規程の整備と導入の必要性・導入経緯の記録の保存と導入後の労働時間管理のルーズ化、みなし分を超過した割増賃金の支払態勢の整備です。
1.みなし割増賃金制の効果
 まず、Aで回答したみなし割増賃金(みなし手当)の割増賃金への充当の効果は、法定時間外労働、法定休日労働や深夜労働となる場合、みなし手当が支払われ、同手当でカバーされる範囲内の時間外・休日・深夜労働については別に割増賃金の支払は不要という効果です(なお、本問に関連して、本章のQ&Aの「従業員が営業手当を支払っているのに残業手当を支払って欲しいと言って来たら?」参照 )。しかし、みなし手当でカバーされている部分を超えた時間外・休日労働・深夜労働がなされた場合、超えた部分については、それぞれの割増賃金の支払いは必要です。このような制度の適法性は、通達・裁判例・学説でも認められています(通達等の紹介は、拙著『実務労働法講義』第3版上巻223頁以下(民事法研究会)381頁以下参照)
2.割増賃金の算定基礎からの除外効果
 なお、みなし手当と割増賃金の基礎となる賃金についてどう扱うかが問題となります。労基法37条5項、労基則21条による割増賃金の基礎となる賃金から除外される賃金については、明文上、家族手当、通勤手当、住宅手当等に限定されていることから問題となります。しかし、この除外賃金に当るかどうかは実質によるとされていますので、仮に営業手当等の名目が使われていたとしても、その実質が、みなし手当としての割増賃金であることが賃金規程等で明確になっていれば、当然このみなし手当を上記算定基礎に入れてしまっては二重の割増となってしまうため、みなし手当は除外して算出されることになります。逆に、後述3の有効要件・要素なきみなし手当は除外の対象とならず、これを含んで割増賃金が計算されることになります。
3.みなし手当の許容要件・要素
(1)原則-割増賃金の内払的性格の明示と内払い超過分の算定可能性と超過分の支払い
まず、みなし手当の許容要件・要素として、原則として、当該みなし手当とされている諸手当(名目は様々)や基本給の一定割合等(以下、当該手当等という)からみなし割増賃金としての性格が明示されていなければなりません。かかる明示がないことを理由として当該手当等がみなし割増として認められなかった例は数多いので要注意です。現行、労基法15条の明示義務の対象と言えるかに争いがありますが(労基則5条1項2号、3号では曖昧)、今後は、労契法4条の労働契約の内容の理解の促進義務の趣旨からも文書での明示を有効要件・要素されることになり得るものと解されます。

(2)最賃法の関係への留意の必要
次に留意すべきは、最賃法への抵触関係です。なぜなら、最賃法の規制対象は、割増賃金等の変動的要素ある賃金を除いた保障であるため(最賃法4条3項2号、最賃則1条2項)、例えば、概観上の月額合計が月40万円でも、基準賃金の時間単価が最賃法に抵触する事態は起こり得ます。この点への留意を当該企業の地域別最賃時給額(同法9条以下参照)と特定(産業別)最低時給額(同法15条以下参照)を点検し、抵触があれば改善が図られねばなりません。最低賃金額は毎年見直され、例えば、平成22年10月24日からの、東京の地域別最賃時給額は821円となる予定です(厚労省HP掲載の「平成22年度地域別最低賃金時間額答申状況」参照。これによれば、1日8時間、年平均月21日の企業での最低賃金の月額は、137,928円となり、基準賃金がこれを下回ることは違法となります。

(3)みなし超過割増賃金の確実な支払
最後は、再論しますが、みなし超過割増賃金の確実な支払です。

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