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【第9編 リストラ・経営効率に欠かせない人材の確保と管理】 - 第4章 人事異動 -

降格・降級

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年1月補正:掲載

どんな場合に従業員を降格することができるのですか?

 A社では、成績の悪い従業員に対して、降格や降級をしたいと考えていますが、降格や降級はどんなもので、どんな場合に、どんな方法でできるのでしょうか?

回答ポイント

 回降格については、部長から課長への降格のように職位を引き下げるものと、職能資格制度下で、資格を低下させるもの、等級を下げるもの(昇級の反対措置で、これが多くの場合、「降級」と呼ばれます)とがあります。又、降格には、懲戒処分としてなされるものと、人事異動としてなされる場合や、いわゆる変更解約告知としてなされる場合もあります。しかし、裁判例は降格・降級につき、それが一般的には権限や賃金の低下等の労働条件の改悪となることが多いことから、降格規定の存在を求めたり、人事権や懲戒権の濫用を認めるなどの方法で、急激な降格に関しては慎重な判断を示しています。従って、降格・降級を実施する際には、その根拠規定の整備やその適用要件の証明は十分かなどの慎重な準備の上にそれを実施することが必要です。
解説
1.降格・降級の意義・態様
(1)昇格・昇級
 先ず、降格・降級の前提となる昇格・昇給について確認しておきます。多くの企業に採用されているいわゆる職能資格制度においては、その企業における職務遂行能力が、先ず職掌として大きく種類分けされ、各職掌の中で様々な資格に類型化され、更にその資格の中で等級化されています。この資格等に応じて基本給の全部又は一部が決められます(職能給制度)。このような制度下での資格の上昇が「昇格」、級の上昇が「昇級」(以下、一括して、昇格等という)と呼ばれ、夫々が昇格試験や人事考課に基づき決定されます。昇格等は、月例の職務給のみならず、賞与、退職金に反映されるばかりでなく、一定の資格が前述の昇進の前提条件となる場合が多いようです(以上、菅野和夫「労働法」第7版補正版197頁以下、383頁以下参照)。

(2)降格・降級の意義・類型
 別に、パート・派遣・契約社員[実務編]Q5で詳述している通り、降格については、部長から課長への降格のように職位を引き下げるもの(昇進の反対措置)と、職能資格制度下で、資格を低下させるもの(上記昇格の反対措置)、等級を下げるもの(上記昇級の反対措置で、これが多くの場合、「降級」と呼ばれます)とがあります。又、降格には、懲戒処分としてなされるもの(降格、降職等と呼称されます)と、人事異動(配転)としてなされる場合があります(菅野・前掲385頁以下参照)。
 裁判例は、以下に要約している通り(判例等の詳細は、パート・派遣・契約社員[実務編]Q5参照)、降格・降級(以下、一括して降格という)につき、それが一般的には権限や賃金の低下等の労働条件の改悪となることが多いことから、慎重な判断を示しています。
2.懲戒処分としての契約社員への降格
 懲戒処分としての降格については、相当性の原則等の一般的な懲戒処分の有効要件が問われることになります(東京地判平成15.9.16労判860号92頁 バンダイ事件では、所得補償保険の不正受給未遂行為を理由とした1等級の懲戒降格が有効とされています)。なお、雇用期間を1年の常勤又は非常勤講師への懲戒降格は、その処分前後の雇用形態の差異に照らし、労働契約内容の変更に留まるものとみることは困難として、許されないとされています(高松地判平成元5.25労判555号81頁 倉田学園事件参照)。
3.人事権による役職・職位の降格
 これに対して配転としての降格については、裁判例は、一般論としては、人事権の行使は、基本的に使用者の経営上の裁量判断に属し、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たると認められない限り、違法とは言えないとし、その裁量判断を逸脱しているか否かを判断するに当たっては、使用者側における業務上の必要性の有無及びその程度、能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度、労働者の受ける不利益の性質及びその程度、当該企業における昇進・降格の運用状況等の諸事情を総合考慮する、としています。
 例えば、これにより、降格が有効とされた例として、営業所長を営業所の成績不振を理由として営業社員に降格した例や(東京地決平2.4.27労判565 号79頁 エクイタブル生命保険事件)、部長の一般職への降格(神戸地判平3.3.14労判584号61頁 星電社事件、東京地判平成15.6.30労経速1852号18頁 日本プラントメンテナンス協会事件-この事案では降格後も本給の減額がなされていないことが重視されている-)、マネジャー職の解職を認めた例(東京地判平成14.11.26労経速1828号3頁 全日本スパー本部事件)などがあります。
 しかし、裁判例は、その具体的判断においては、以下のように、降格が労働条件の改悪となることが多いことから、慎重な判断を示すものも少なくありません。例えば、課長職から降格した事例で、課長職から課長補佐職相当職への降格は、使用者の人事権の濫用とは言えないが、この降格後の総務課(受付業務担当)への配転は違法とされたり(東京地判平7.12.4労判685号17頁 バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件)、バイヤーからアシスタントバイヤーへの降格に関し、職種が一定のレベルのものに限定された労働者を不適格性を理由により低いレベルのものに引き下げる降格はできないとされ(東京地判平 9.1.24労判724号30頁 デイエフアイ西友事件)、あるいは、婦長から平看護婦への二段階の降格につき、業務上の必要性があるとは言えず、降格がその裁量の範囲を逸脱した違法・無効なものとされたり(釧路地帯広支判・平9.3.24・労判731号75頁 北海道厚生農協連合会事件)、しています。
 なお最近のシャチ殖産事件(大阪地判平11.12.17 労判789-80)では課長から係長への降格は有効としましたが更になされた係長から平社員への降格は無効とされています。
 近時のハネウェルジャパン事件(東京高判平成17.1.19労判889号12頁)も、4次にわたる降格・減給処分につき、1次降格については、3~5か月間の間は能力の判断に不十分であり、社長への非協力的態度は能力の判断に結びつくものではないうえ、使用者へ現実の不利益が発生しておらず、かえって社長が自己に反発する者への意図的な対抗措置として行ったと推認でき、営業業績・内容に特段の問題もないものを正当の理由なく降格として人事権濫用にあたるとしました。第2次ないし第3次降格処分につき、無効な第一次降格処分を前提とするものであること等から、無効とされ、差額賃金、慰謝料の支払いが認められています。
4.職能資格の引き下げ措置としての降格
 なお、職務内容につき変更がないにもかかわらず実施された職能資格・等級の見直しに伴う給与の号俸等の格下げ措置につき、右措置の実施のためには就業規則等に基づく明確な根拠が必要とされるところ、会社にはそれらがなく、また、減給を定めた新就業規則上の規定の拘束力については不利益変更の高度の必要性が要求されるが、被告会社によるその点に関する証明がないとして、降格・減給措置を定めた新就業規則には効力がないとされた例もあります(東京地判平 12.1.31 アーク証券事件 労判785号45頁。但し、函館地判平成14.9.26労判841号58頁 渡島信用金庫事件は、降格に伴う減給に関して明確な規定がない場合につき、昇格に伴う漸増的な昇給規定を.類推適用して降格の場合の減給幅を抑制し、一部の差額請求を認めています)。
 又、大阪地判平12.5.8 マルマン事件(労判787-198)では、家電製品販売会社の支店長等を歴任してきた労働者を資格等級3級から4級に引き下げた降格処分は、役職を解く類の降格ではなく、職能部分の賃金の減額を伴うもので、労働契約の重要部分の変更として従業員の合意又は就業規則上に要件を明示すべきで、これを欠くものとして無効とされています。同様に、日本ドナルドソン事件(東京高判平成16.4.15労判884号92頁)でも、55歳到達後の退職勧奨を拒否した労働者に対して実質的な配転を伴わずに実施された、賃金を従前の半分程度に減額する給与辞令につき、同人の受ける不利益は著しく大きく、同人の労働能力について適切な評価がなされたとは認められない一方、その必要性が高くなく、十分な代償措置も講じられず、社内組合も同意したとはいいがたいとして、その合理性を否定し無効とされています。人事考課による降級の限界を示す好例でしょう。
5.変更解約告知による契約社員への降格
なお、理論的には、企業の経営上必要な労働条件変更(切下げ)による新たな雇用契約の締結に応じない従業員の解雇を認める「変更解約告知」(以下、告知という)の法理が認められれば、この告知により、契約社員への変更に応じない者を解雇することにより、事実上強制的に契約社員への変更をすることができますが(パート・派遣・契約社員[実務編]Q5参照)、この理論は未だ裁判例も1件に留まり、仮に採用された場合も、その要件が裁判例上も学説上も極めて厳しく、実際の適用には困難を伴うでしょう。
対応策
 以上の通り、裁判例は降格・降級につき、それが一般的には権限や賃金の低下等の労働条件の改悪となることが多いことから、降格規定の存在を求めたり、人事権や懲戒権の濫用を認めるなどの方法で、急激な降格に関しては慎重な判断を示しています。
 従って、「回答」のように、降格・降級を実施する際には、そもそも、それがいかなる措置としてなされるのが最も適当かを吟味した上で、その根拠規定の整備の有無を点検し、未整備の場合は整備の上、当該降格において、その降格規定の適用要件の証明は十分かなどの慎重な準備の上にこれを実施することが必要です。

(C)2007 Makoto Iwade,Japan

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