法律Q&A

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パワハラ

弁護士 村林 俊行 2017年10月:掲載

A社の従業員Bは、会社の上司Cからの退社後の飲食の誘いを何度か断ったところ、挨拶をしてもCより無視され、報告した業務に対する返答もない状況となっており、最近は退職を迫られるようにもなっています。そのような報告を受けたA社としては、B、Cに対してどのような対処をすればよいでしょうか。

A社としては、早急に事実関係を調査した上で、事実確認ができた場合には、速やかに被害者Bに対する配慮の措置を適正に行うとともに、加害者Cの異動等の人事上の処分や懲戒処分の検討・実施等を行い、Cに対して再発防止のための研修等を受けさせる必要があります。また、根本的には、パワハラ問題が発生しないような予防策を講じることが肝要です。

1 パワハラとは
 パワハラとは、パワーハラスメントの略語で、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係等の職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。
 ここに「職場の優位性」とは、パワハラが、上司から部下へのいじめ・嫌がらせを指して使われる場合が多いですが、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものもあります。また「職場内での優位性」には、「職務上の地位」に限らず、人間関係や専門知識、経験等の様々な優位性が含まれます。
 また、業務上必要な指示や注意・指導については、上司は自らの職位・職能に応じて権限を発揮し、業務上の指揮監督や教育指導を行い、上司としての役割を遂行することが求められることから、「業務の適正な範囲」で行われる限り、労働者が不満に感じたりする場合でも、パワハラには当たりません(以上につき、平成24年1月「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ報告」より)。
 パワハラの行為類型としては、
(1)身体的な攻撃(例えば、暴行・傷害)
(2)精神的な攻撃(例えば、脅迫・名誉棄損・侮辱・暴言)
(3)人間関係からの切り離し(例えば、隔離・仲間外し・無視)
(4)過大な要求(例えば、業務上明らかに不要なことの強制・仕事の妨害)
(5)過小な要求(例えば、業務上合理性なく、能力経験からかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
(6)個の侵害(例えば、私的なことに過度に立ち入ること)
があります(厚労省「あかるい職場応援団」サイトより)。
 このようなパワハラは、被害者の健康被害を引き起こしたり、職場環境を悪化させるだけではなく、会社にとってもモラールの低下を引き起こし、人材の流失、訴訟による損害賠償請求を受けたり、会社のイメージ悪化につながる等、労働者や会社等にとって悪影響しかなく、違法行為となります。
2 被害者の救済策
 パワハラ被害者の救済策としては、(1)会社に対しては、会社内部または外部に設置された相談窓口への相談やそのような窓口がない場合には信頼できる上司等への相談が考えられます。
 次に、(2)民事上の救済策としては、①加害者に対しては不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)、②会社に対しては使用者責任請求(民法715条1項)及び安全配慮義務(労契法5条)等の違反に基づく債務不履行責任請求(民法415条)が考えられます。
 また、(3)刑事上の救済策としては、暴行・傷害等が行われた場合には、検察庁や警察に対して刑事告訴(被害届の提出)を行うことにより、刑事上の責任を追及することが考えられます。

対応策

職場のパワハラは、一旦発生するとその解決に多大な時間と労力を要することが多いことから、まずは問題が発生しないように予防策を講じることが肝要です。そのためには、会社とすれば、①組織のトップが職場のパワハラを許さないということを明確に示すこと(トップからのメッセージ)、②パワハラに対する規則を整備すること、②社員アンケートを行う等して実態を把握すること、③パワハラに関する研修会を実施すること、④会社のパワハラに関する方針等を周知することが必要となります。

予防策

 会社としては、1記載の労働者や会社等にとっての損失を回避することを通じて、社員各人が人格の尊厳を尊重される職場を構築する必要があります。そのためには、会社としては、①パワハラ被害者からの相談や解決の場を設置すること、②パワハラ加害者に対する再発防止のための取組を行うことが必要となります。
 ①については、企業内外に相談窓口を設置して、職場の対応責任者を決めるとともに、外部専門家との連携も図れるようにする必要があります。また、具体的な相談があった際には、必要に応じて被害者や加害者等から迅速かつ適切な聞き取り等を行った上で、事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うとともに、加害者の異動等の人事上の処分や懲戒処分の検討・実施等を行わなければなりません。また、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱を行ってはならないことを、周知・啓発する必要があります。
 ②については、パワハラ加害者に対する研修の実施が検討されるべきですが、その際には本人の立場にも配慮する必要があります。そのために、例えば社外セミナー等に参加してもらい、レポートを提出させることを検討してみてもよいものと思われます。

 以上の詳細については、当事務所パートナー弁護士村林俊行が作成に関与した、厚労省作成の「パワーハラスメント対策導入マニュアル<予防から事後対応までサポートガイド>」(第2版・平成28年7月7日)を参照してください。http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000128935.html

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