法律Q&A

分類:

試用期間を個別に延長することは可能か

弁護士 村木 高志 2018年1月:掲載

試用期間を個別に延長することは可能か

当社では、就業規則で6ヶ月の試用期間を定めています。何人かの学生を新卒採用したのですが、そのうちの1人につき、配属先の現場から、業務遂行能力が他の新卒社員よりも劣っている、周りの社員との協調性に欠けているなど、問題がある旨の報告がありました。そこで、試用期間終了後も様子を見るために、この社員のみ、個別に試用期間をさらに6ヶ月延長しようと考えています。このような試用期間の延長は可能でしょうか。なお、当社では、就業規則において、試用期間の延長については特に定めていません。

就業規則に試用期間延長の定めがなければ、延長するためには当該社員の同意が必要です。
また、同意を得たとしても、延長期間については、6ヶ月ではなく、3ヶ月以内程度にとどめておくことがよいでしょう。

1.試用期間とは
 試用期間とは、①会社がその期間中の従業員の身元調査の補充や(適格性身元調査補充期間)、②その期間中の勤務状態の観察により(適性判定実験観察期間)、会社の職務についての適格性を判断し、それらにより適性がないとされる場合には、本採用拒否ができるという解約権が付いた労働契約上の法的地位であるとされています (三菱樹脂事件・最大判昭和48・12・12民集27巻11号1536頁。最近では、ライトスタッフ事件・東京地判平24・8・23労判1061号28頁等)。
2.試用期間の長さ
 通常は、3ヶ月とするケースが多く、実際、1~6ヶ月の範囲で定めているケースがほとんどでしょう。なお、試用期間に対する具体的な法規制はありませんが、不当に長い試用期間は、公序良俗に反するものとして、無効とされることがありえますので、注意が必要です(ブラザー工業事件 ・名古屋地判昭和59・3・23労判439号64頁参照)。

 今回の事案では、試用期間が6ヶ月と定められており、やや長いですが、それ自体は、許容範囲内であると考えられます。
3.試用期間の延長
 不安定な地位にある試用期間の延長は、就業規則などでその旨の規定が明確に設けられていない限り認められないと解されています。ただし、上述のブラザー工業事件(名古屋地判昭和59・3・23前掲)は、労働者に有利な延長は、規定がなくても可能と解しています。
 今回のケースでは、試用期間の延長に関する定めがないため、会社から一方的に試用期間の延長をすることはできません。そのため、当該社員の個別合意があった場合に限り、試用期間の延長が可能であると解されます。

 ただし、もともと6ヶ月という比較的長期の試用期間が設定されていますので、さらに6ヶ月間延長すると、試用期間が合計で1年間になります。これは、あまりにも長いというべきで、本人の同意があったとしても、万が一裁判などで争われた場合、当該合意が公序良俗に反して無効であると判断される可能性もあります。

 したがって、試用期間を延長せずに本人の適性を判断することがもっともよいのですが、どうしても試用期間を延長しなければいけない事情があるということであれば、本人の同意を得た上で、3ヶ月以内程度の延長をするのがよいでしょう。

対応策

 上記のとおり、できる限り、試用期間を延長せずに本人の適性を判断するのがよいのですが、どうしても延長しなければいけない事情があるということであれば、本人の個別同意を得た上で、3ヶ月以内程度の延長をするのがよいでしょう。
 なお、当然のことですが、試用期間中であれば、簡単に本採用拒否ができるということではありませんので、この点にも注意が必要です。

予防策

試用期間の延長をする場合がありうるということであれば、就業規則において、試用期間を延長する場合があることを明確に定めておく必要があります。また、試用期間の長さについても、あまりにも長期の試用期間にならないように、適切な長さに設定するということも必要です。例えばですが、試用期間を3ヶ月と定め、延長する場合でも3ヶ月以内にするというような定め方が適切ではないかと考えます。6ヶ月もあれば、本人の適性などの問題点は判断できると言えるでしょう。

関連タグ

身近にあるさまざまな問題を法令と判例・裁判例に基づいてをQ&A形式でわかりやすく配信!

キーワードで探す
クイック検索
カテゴリーで探す
新規ご相談予約専用ダイヤル
0120-68-3118
ご相談予約 オンラインご相談予約 メルマガ登録はこちら