法律Q&A

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第2回 法定健康診断をめぐる問題

岩出 誠(弁護士・ロア・ユナイテッド法律事務所)
(1)法定健康診断とは
 企業は、常時使用する全ての従業員に対して、雇入時と毎年1回定期に医師による健康診断(健診)を実施しなければならない(安衛法66等。法定健診)。その診断項目は、原則として、従前からの身長、体重、胸部X線検査等に加えて、肝機能・血中脂質・心電図検査等のいわゆる生活習慣病への検診項目も追加され、充実化されている。これらの一般健診に加えて、有機溶剤業務従事者などに対してはさらに特殊健診が義務付けられている(労安則45等)。最近は、いわゆる過労死等に絡んで、この健診義務違反の刑事責任が問われる事件も現れている(大阪地判平12.8.9判時1732-152)。
(2)法定健診における医師選択の自由
 安衛法上の定期健診に関しては、従業員に受診義務と共に健診担当医師の選択の自由が認められ、従業員は、事業者の指定した医師等が行なう健診を受けることを希望しない場合、他の医師等の行なう健診に相当する健診を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出すれば受診義務を果たしたことになる(安衛法66 条Ⅴ)。
(3)法定健診たるX線検査の受診義務
 医師選択の自由は別として、従業員の法定健診の受診義務があることは当然と考えられていたところ、診断項目の内、X線検査については、地裁レベルで、被爆の副作用への懸念から受診義務を否定した例があったが(愛知県教育委員会事件・名古屋地判平8.5.29労判722-77)、高裁(名古屋高判平 9.7.25労判729-80)・最高裁(最判平13.4.26 労判804-15)ではX線検査の受診義務の存在が確認され、受診拒否を理由とする教諭への減給処分が有効とされた。曰く、[1]職員には、法令上、定期健診におけるX線検査を受検する職務上の義務があり、[2]X線検査の有害性については、国際的に集団検診についての見直しの機運があること等の実情を認めつつも、その医学的有用性が依然として存在し、特に感染可能性の高い中学生に接する生活環境にある教諭には、職務上の受診義務があるとされた。しかし、[2]の部分に重きをおくことはできず、この判示はいわゆる傍論と解される。なぜなら、他への感染の恐れは別段教諭に独自のものではなく、在宅勤務でもない通常の集団作業に関与している通常の従業員についても当てはまるからである。
(4)いわゆる二次健診
 過労死(後述 8 参照)の予防対策として、定期健診において、過労死に関連する異常の所見があると診断された労働者に対し、医師による二次健診等が労災保険の保険給付(二次健診)として認められている(労災保険法26条以下)。二次健診等は、当該労働者の請求ある場合になされるもののため、指針も(平12.3.31指針2号。後述 5 参照)、二次健診については、事業者が労働者に対して、その受診を推奨すべきとするにとどまり、労使に対して、安衛法上の義務としては定めていない。しかし、従前から、前記指針は、事業者に対して、労働者の自主的な健康管理を促進するため、一般健診の結果、特に健康の保持に努める必要があると認められる労働者に対して、健診に基づく再検査若しくは精密検査、治療のための受診の勧奨等を行うことを求めていたことに加えて、前述 1 の通り、裁判例が企業に課している健康配慮義務からは、二次健診を受診させるべき環境を整備すべき義務が導き出されるものと解され、受診義務の存否に関しては、後述 3 の法定外健診に関する場合と同様に処理されるものと解される。

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