法律Q&A

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痴ほう後のケア等に関する法制度の整備

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2000.05.23

高齢社会の急速な進展に伴い、痴ほう症老人の介護に当たっている関係者らが、本人の不動産などの財産の処分をして、医療・生活・介護等の費用に当てようと思っても、本人にはそのような取引をする法的な意思能力がないなどとされて、財産管理権が宙に浮いてしまうようなトラブルが増えています。最高裁の調査によると、このような場合に対応すべき民法改正前の禁治産、準禁治産の申立は、年々増加の一途で、1987年に初めて千件台を超え、1997年には10年前の倍以上の2503件にまで急増しています。

しかし、従来の民法の制度では、前記のように家族がいない場合の検察官の申立が人手不足で機能していなかったり、戸籍に禁治産が記載されることが、家族の結婚や就職に不利になるとの心配や、精神鑑定の費用が数十万円もかかるなどから、利用されなかったり、あるいは、本人の症状に応じた柔軟な保護ができないなどの制度上の不備への批判が多くありました。

そこで、これらの不満に応え、高齢社会に対応するための様々な新制度が今年2000年4月から施行されています。新制度は多岐に渡りますが、先ず、改正の目玉は、自己決定の尊重を理念に、痴ほう、その他の知的障害などで判断能力が低下する前に、本人の意識が鮮明な内に、痴ほうになった場合の財産管理に関する、新説の「任意後見契約に関する法律」による、任意の後見人を決めておく「任意後見制度」の創設です。これにより、高齢者らが、将来の自己の生活や財産管理などの事務について、公正証書をもって保護者と委任契約を締結し、判断能力の低下時に、本人、配偶者、本人の四親等以内の親族、任意後見受任者のだれかの申立により家庭裁判所(家裁)が後見人に代理権を与えることができるようになりました。この任意後見人は、個人だけでなく、社会福祉協議会など福祉関係法人などの法人にも拡大されました。なお、この任意後見人の権利濫用への監督のため、任意後見監督人が置かれます。家裁は、後見人に不正な行為など後見の任務に適しないことが判明した場合には、本人かその親族、検察官から申立があった場合、又は、家裁の職権で、後見人又は監督人を解任できます。

次に、前述の禁治産制度等の不備を排除して、より軽度の精神障害者への補助の制度を新設し、差別的なイメージがある禁治産、準禁治産などの言葉と戸籍記載を廃止し、各々、後見、保佐に変更し、後見登記が法務局になされることになりました。なお、今まで禁治産の場合、配偶者が当然に法定後見人になっていたのも前記の任意後見制度の導入に伴い、自己決定の尊重の観点から廃止されました。同様の観点から、後見の場合も、簡単な日用品の購入などは後見人の取り消しが及ばず、自由にできる事になりました。

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