法律豆知識

会社分割で労働契約はどうなる!? 会社分割労働契約承継法のあらまし

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2000.09.08

はじめに
 労働省は、平成12年3月10日、企業のリストラチャリング(再構築)・再編などの過程で行なわれる分社化など会社分割の際の労働契約や労働協約の承継関係について定めた「会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」(以下、承継法又は法といいます)を国会に上呈し、同法は同年6月24日に成立しました。承継法は、従前、労働者の同意を前提としていた転籍につき(例えば三和機材事件・東京地決平成4.1.31判時1416-130も就業規則の包括的規定による転籍命令権を否定しています)、分社手続のなかで一定の労働者について同意を不要とするなど今までの労働法理を立法的に覆すなど実務的にも大きなインパクトを持つものです(図解4参照)。そして会社分割法及び承継法は、早ければ平成12年10月1日、遅くとも平成13年1月中に施行が予定されています。そこで、本稿は、承継法が制定された経緯、内容の概要を概説し、合わせて同法の施行・利用に当たっての実務的注意点、同法によっても未解決な問題点などを検討します。
 しかし、承継法の推進・早期成立を求めた経済界と、労働者の保護が不充分と反対乃至大幅修正を唱えた労働界との対立も深刻で(両者の対立内容については、平成12年2月10日公表の「企業組織変更に係る労働関係法制等研究会報告書」<座長・菅野和夫東京大学法学部教授>1頁以下(以下、報告書と言います)参照)、国会審議において、承継法の前提となります会社分割に関する商法・有限会社法等の改正(以下、会社分割法といいます)について後述の労働者との事前協議義務等や、承継法について労働者の分割等に関する理解・協力取得努力義務等の修正がなされ(連合は民主党を通じ、修正点の外、対抗上、「企業組織の再編に伴う労働者保護法」案を国会に提出しましたがこれは廃案になりました)、ここでの対立点は今後の政省令をめぐる議論にも影響が予想されます。更に、承継法自体も承継の大枠を示すに留まり、実務的な実施に当たっては様々な問題の発生が予想されることから、労使に分割の際に労働契約承継につき留意すべき点についての指針や労働者・労働組合への分割通知記載事項等に関する関係政省令が施行までに示されることになっており、実際の承継法の利用に当たってはそれらへの検討を忘れてはなりません。従って、ここでの検討も以上の流動的要素を含まざるをえないことを最初にお断りしておきます。
I  商法等における会社分割法導入の経緯とその概要
1 導入の経緯
 最初に、前述の通り、承継法の前提となる会社分割に関する商法・有限会社法等の改正である会社分割法成立の経緯について触れておきます。
 会社分割法は、持株会社を解禁した平成10年の独禁法改正や持株会社の創設を円滑にするための株式交換・株式移転制度を導入した平成11年の商法改正等による、一連の企業の競争力強化を狙った企業再編のための法整備の一環をなし、その締めくくりとも言うべきもので、経済界からの強い要請により実現され、企業の事業再構築(リストラ)を一層後押しすることが期待されているものです。
 現行法の下でも、[1]営業譲渡又は[2]営業の現物出資により会社を分割することはできたのですが、[1]は資金の必要、[2]は現物出資の煩雑な手続きが必要で、いずれも債務引受の個別同意の必要なところから、国際競争の激化の中で、企業再編のより迅速・簡易な方法が求められていたのです(会社分割法案の説明の詳細に関しては前田庸「商法等の一部を改正する法律案の解説」<上・中・下>商事法務1553~1555参照)。

2 会社分割法の概要
 会社分割法における権利義務の承継の特徴、企業が分割の際に実際に取らねばななない手続等 次に、会社分割法の内容を概観してみます(概要及び図解については商事法務編集部「商法等の一部を改正する法律案の概要」商事法務1552-4以下、日経平成 12年3月4日付記事を参考とさせて頂きました。又、詳細については、前田・前掲・商事法務1553~1555参照)。

(1)営業の包括承継としての分割
 会社分割法は、前述の通り、株式会社又は有限会社(以下、一括して会社といいます)の営業の全部又は一部を承継させる制度で、企業再編のための法整備の一環として創設されたものです。同法においては、円滑・容易な会社分割の必要性等を考慮し、対象となる営業の全部又は一部を構成する権利義務(契約上の地位を含みます)の承継については、いわゆる部分的包括承継、つまり当然承継であって部分的承継という新しい概念が導入されています。
 なお、ここで、会社分割法において包括的に承継される権利義務とは、会社分割により承継させる営業の全部又は一部(以下「承継営業」といいます)を構成するものです。したがって、「承継営業」を構成しない権利義務は、同法案の対象外で、仮に分割計画書又は分割契約書(以下「分割計画書等」という。)に記載したとしても包括承継の効力は生じず、承継させるためには別途契約行為等が必要とされます(分割の全体像については、図解1参照)。

会社分割の概要図
会社分割法の概要

(2)原則的分割手続
 分割は、原則として、株主総会又は社員総会にて特別決議による承認を得た分割計画書等に記載された権利義務が分割会社から、新設分割(図解2参照)又は吸収分割(図解3参照。以下、両分割を、「分割」といいます)により、設立会社又は承継会社(以下「設立会社等」という。)に包括的(一括して法律上当然)に承継されるもので、権利義務の承継を行うに際しては、債権者の同意を得ること等承継のための特段の行為をする必要はないとされています。ただし、債権者、株主については、債権者保護手続、株主総会における特別決議や分割無効の訴えの手続等が用意されており、分割手続の円滑な進行との調和を図りつつ、権利の保護が図られています(図解2、3参照)。

新設分割手続の流れ図 吸収分割手続の流れ図
吸収分割手続きの流れ

(3)小規模な分割のための簡易分割手続
 なお、小規模な分割(設立会社等に承継される財産が貸借対照表上の資産合計額の20分の1以下の場合)については、株主総会等での特別決議や反対株主の買取請求権を認めない簡易な分割手続(以下、簡易分割といいます)が定められています(改正商法374条の6、 374条の22各第1項等参照)。

(4)国会における会社分割法への労働者との事前協議義務等の修正点
 なお、国会においては、会社分割法と承継法の早期成立を図るため、以下の修正がなされました。

[1] 労働者との事前協議義務の追加
 野党は、前述の通り、分割・合併等の企業再編の際の解雇禁止等を含む「企業組織の再編に伴う労働者保護法」案の提出をもって会社分割法に反対していたところから、会社分割法(商法等の一部を改正する法律)の附則中に、分割会社は、分割計画書等を本店に備え置くべき日(改正商法374条の2第1項本文。結論的には、前述の分割承認の株主総会等の2週間前)までに、分割に伴う労働契約の承継に関して、労働者と協議をするものとする、とされました(同附則5条1項)。
 これは、会社の分割により分割会社の労働者の労働契約を設立会社等に承継させるかどうか等について、後述(III)の承継法の定める労働者等への事前通知義務を踏まえて、労働者と事前に協議をすることを会社に義務づけることにより、労働者の保護を図ろうとするものです(同修正案提案理由)。なお、簡易分割の際には分割計画書等が作成された日から起算して2週間前までに、となります。又、協議の相手は、労働者とされ、労働組合ではありませんので、この会社分割法自体から、当然には、労働組合との事前協議義務は発生しませんが、労働組合が分割に関する団交を求めてきた場合にこれを拒否できないことは後述(III4 (2)[1])の通りです。

[2] 分割計画書等への雇用契約承継関係の明示
 次に、従来から解釈上当然とは解されていたのですが(報告書4頁以下参照)、前述の野党の反対を踏まえて、分割計画書等に分割会社から承継する権利義務に関する事項として、雇用契約等を例示することになりました(改正商法374条第2項5号及び同条の17第2項第5号等)。
 これは、雇用契約上の地位が分割計画書等に記載すべき分割によって承継する権利義務に含まれることを明らかにするものです(同修正案提案理由)。これにより、後述の通り、従来、当然には承継されることはないとされていた、既往の労働に対する賃金債権や退職金(一時金及び年金)債権、社内預金債権等についても、分割計画書等への記載により設立会社等が承継することがあり得るとも解し得ますが、他方、前述(I2(1))の通り、「承継営業」を構成しない権利義務は分割計画書等への記載によっても承継しないものとも解されており、いずれにしても、未解明な問題であり、結論は、今後の通達・判例等の集積を待つ外ないでしょう
II会社分割法導入に伴う労働関係への影響-承継法の作成経緯・必要性とその立法趣旨・目的
1分割法に伴う労働関係の承継
 会社分割法による分割においては、労働関係の権利義務についても、他の権利義務と同様、会社の意思のみにより承継される労働者の範囲を定めることができ、それが分割計画書等に記載された場合は、労働者の同意の有無に拘わらず、分割会社から設立会社等に包括的に承継されることになります。なお、前述(I 2(4)[2])の修正された会社分割法により、この労働契約上の権利義務の承継についても分割計画書等に記載することが確認的に明示されました。つまり、分割により、労働者としての地位及び契約内容(労働条件を含む)がともに承継されると解されます。但し、報告書では、個々の労働契約を全体として承継させ又はさせないとすることしかできず、その契約の一部(賃金や労働時間など個々の契約内容の一部)だけを取り出して承継させることはできないとされていましたが、この承継の範囲の点に関しては、上記明文化により、後述(III2(1)[3])の通り若干の疑義があります。
 なお、分割計画書等の作成と並行して、別途労働者の個別の同意を得て労働契約の内容を、会社分割の効力発生を停止条件とするなどにより、会社分割の効力発生時に合わせて効力が生ずるように変更する契約が締結された場合は、会社分割の効力発生と同時に労働契約の内容が変更されます。しかし、この契約は、あくまで分割とは別個の法律行為となります(後述III2(1)[4]参照)。

2承継法の趣旨・目的(1条関係)
 報告書によれば、分割には、労使関係上、[1]労働契約の承継については、個別労働者の転籍への同意等の問題が、[2]労働協約の承継については承継する協約の範囲等の多くの問題点が想定され、それらへの対応として、労働契約の承継において、合併の場合とのバランスを配慮した上で、一定範囲の労働者について異議申立を認める等による「労働者の保護を図ることを目的とする」(法1条)分割法の特例を定める立法による具体的措置内容が必要とされ、承継法が作成されたものです。
III承継法の具体的内容とその実務上の問題点
1労働者及び労働組合への分割の事前通知義務(2条関係)

(1)労働者への事前通知義務(同条1項)
[1]法上の定め
 分割しようとする会社(以下、分割会社)は、分割をするときは、次に掲げるa、bの各労働者に対し、分割計画書等を承認する株式会社の株主総会又は有限会社の社員総会(以下、株主総会等)の会日の2週間前までに、その分割に関し、分割会社がその労働者との間で締結している労働契約をその分割によって設立し、又は営業を承継する設立会社等が承継する旨の分割計画書等中の記載の有無、転籍拒絶等に対する異議申立て期限日(同法案条1項)その他、今後労働省令で定める事項を書面により通知(以下、個人宛分割通知)しなければなりません。/a分割会社が雇用する労働者で、設立会社等に承継される営業(以下、承継営業)に主として従事するものとして労働省令で定めるもの(以下、承継営業主要従事労働者)。/b分割会社が雇用する承継営業主要従事労働者以外の労働者で、分割計画書等にその者が分割会社との間で締結している労働契約を設立会社等が承継する旨の記載があるもの(以下、指定承継労働者)

[2]「承継営業主要従事労働者」の範囲
 承継営業主要従事労働者か否かは、後述の当然転籍等の効果の面からも重要な問題であり、具体的にどのように他の労働者と区分するかは微妙な問題となるため、追ってその基準が労労働省令で定められることになっています。現在の時点で想定できる区分を挙げておきますと、例えば、A(バス)、B(タクシー)、C(ホテル)等の複数の事業を経営している会社にがA部門を分割する場合において、A事業のバス運転手等がこれに該当することについては疑義はないでしょう。これに対し、ABいずれの事業についてもメンテナンス業務に従事したりするような複数の部門にまたがって仕事をしていた人については、分割部門と他の部門との仕事の質・量等の総合的判断から相対的に、主従・軽重が決定されることになるでしょう。更に、人事・労務・総務等のように全部門に関係してその主従・軽重が決められない業務に従事している労働者は承継営業主要従事労働者には原則として該当しないものと解されます。

[3]「事前通知事項」の範囲
 「事前通知事項」の範囲・内容についても、承継法自体は、分割会社から設立会社等への転籍者の「分割計画書等中の記載の有無、転籍拒絶等に対する異議申立て期限日」と述べるのみで、追ってその基準が労働省令で定められることになっています。

[4]「事前通知」の法的意味・効果
 ここでの「事前通知」は、後述の転籍又は残留への異議申立て期限日(同法4条1項)との関係で意味を持ってきます。
 なお、この事前通知義務違反の法的効果については、承継法自体は明確には触れていません。例えば、承継営業主要従事労働者についても分割による自動的な転籍効果があるのか、という問題に関しては、労働者保護の観点からの会社分割法制の特例を定める承継法案の立法趣旨からすれば、非承継営業主要従事労働者と同様の異議申立権が上記期限にかかわらず認められるなどが考えられます。同様に、指定承継労働者の異議申立権についても、上記期限にかかわらず認められるなどが考えられますが、いずれも未解明の問題です。

(2)労働組合への事前通知義務(同条2項)

[1]承継法案上の定め
 分割会社は、労組法2条の定める労働組合(以下、労働組合)との間で労働協約を締結しているときは、その労働組合に対して、分割計画書等を承認する株主総会等の会日の2週間前までに、分割に関し、労働協約を設立会社等が承継する旨の当該分割計画書等中の記載の有無その他労働省令で定める事項を書面により通知しなければなりません。

[2]通知を要する「労働組合」の意義
 ここで事前通知を要する労働組合は、労組法2条の定める労働組合です。従って、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体またはその連合団体」(同条本文)であること、つまり、いわゆる組合の団体性と自主性等に関する実質的要件を備えていれば、その名称のいかんを問わずすべての労働組合が対象になります。実務的には、管理職組合等につき、労働組合としての資格が問題となることが多いようです(詳細については、最近、管理職組合について労働組合としての資格を認めたセメダイン事件・東京地判平成 11.6.9労判763-12、同判決の解説である、角田邦重「管理職組合の法適合性」労判766-7等参照)。なお、承継法では労組法5条には言及していません。従って、労組法2条の組合の団体性と自主性等に関する実質的要件を備えていれば、労組法5条の、直接無記名投票の過半数による同盟罷業開始の決定等を含む規約の整備等に関する、いわゆる組合の民主性に関する形式的要件を満たさない組合に対しても通知は必要となります。

[3]労働協約を締結している場合
 事前通知が必要なのは、以上の組合が分割会社と労働協約を締結している場合です。

[4]「事前通知事項」の範囲
 「事前通知事項」の範囲・内容についても、承継自体は、「労働協約を設立会社等が承継する旨の当該分割計画書等中の記載の有無その他」と述べるのみで、追ってその基準が労働省令で定められることになっています。

[5]「事前通知」制度導入の理由等
 ここでの「事前通知」は、事実上、労働組合に分割に関する団体交渉や争議行為のチャンスを与える以上には、前述の個人宛分割通知と異なり、その法的意味・効果については曖昧です。この事前通知義務違反の法的効果については後述(4(2)[1]参照)することとします。

(3)簡易分割の場合の事前通知期限の特則(同条3項)
 簡易分割の場合、株主総会等での特別決議が不要とされる関係で、総会等の会日を基準とする事前通知期限が意味をなさないため、本条1、2項の分割計画書等を承認する株主総会等の会日の2週間前までとあるのは、「分割計画書等が作成された日から起算して2週間以内」とされます。

2承継営業主要従事労働者の労働契約の承継関係(法3、4条関係)

(1) 承継営業主要従事労働者の設立会社等への原則的労働契約の承継(同3条)
[1]承継法上の定め
 承継営業主要従事労働者(法2条1項1号参照)が分割会社との間で締結している労働契約で、分割計画書等に設立会社等が承継する旨の記載があるものは、分割計画書等に基づく分割の効力が生じた時に、設立会社等に承継されることになります。

[2]分割計画書等に基づく設立会社等への労働契約の当然承継
 先ず、今までの労働判例の転籍法理への分割法と承継法による最大の改革点がここにあることは前述の通りです。

[3]当然承継の法的意味
 承継の意味について、当初の分割法案では、労働関係の権利義務(契約上の地位を含む)につき特に明文の規定はありませんでしたが、同法における権利義務の範囲に含まれると解されていました。この点、前述(I2(4)[2])の通り、修正された会社分割法によれば、分割計画書等に分割会社から承継する権利義務に関する事項として、雇用契約等を例示することになりました。また、同法上、「承継営業」を構成する労働関係の権利義務は、他の継続的契約関係に基づく権利義務と同様、分割計画書等に記載された権利義務については、分割会社から設立会社等に包括的に承継され、記載されなかった権利義務は承継の対象とならないとされています。もっとも、報告書では、既往の労働に対する賃金債権や退職金(一時金及び年金)債権、社内預金債権等を有する労働者については、債権者として、債権者保護手続、分割無効の訴えの手続で対応することになると解されていました。しかし、前述(I2(4)[2])の修正された会社分割法によれば、上記既往の労働に対する賃金債権等についても、分割契約書等への記載により設立会社等が承継することがあり得るとも解されますが、この点は未解明な問題です。なお、労働関係の承継ということは、前述(II1)の通り、原則的には、従前の労働条件がそのまま維持されて設立会社等に転籍することになります。

[4]分割に際しての労働条件変更の可否
 従って、個別の合意や労働協約による場合は格別(前述II1参照)、ここでの分割により直ちに労働条件の切下げ等の変更を行なうことはできず、それは分割後の設立会社等における就業規則や労働協約の改正によることになります。そしてそれらに関しては、合理性を要件とする就業規則の不利益変更に関する判例法理等の従前の労働法理により処理されることになります(拙著「改正労働法への対応と就業規則改訂の実務」19頁以下等参照)。

(2)分割計画書等に基づき設立会社等に承継の記載なき承継営業主要従事労働者の異議申立権(同4条)
[1]法上の定め
 a 承継営業主要従事労働者(2条1項1号参照)であるにも拘らず、分割計画書等に承継の記載がなく、分割会社との間で締結している労働契約を設立会社等に承継されないことになった労働者は、前述の事前通知がされた日から分割会社が定める日(以下、異議申立期限日)までの間に、当該分割会社に対し、当該労働契約が当該設立会社等に承継されないことについて、書面により、異議を申し出ることができます。/b異議申立期限日は、分割会社が作成した分割計画書等を承認する株主総会等の会日の2週間前の日からその会日の前日までの日に限ります。簡易分割の場合は分割計画書等に記載された分割をなすべき日の前日までの日に限られます。そして、分割会社は、期限日を定めるときは、事前通知がされた日と期限日との間に少なくとも13日間を置かなければなりません。/c aの労働者が異議を申し出たときは、労働者が分割会社との間で締結している労働契約は、分割計画書等に係る分割の効力が生じた時に、設立会社等に承継されることになります。

[2]異議申立の効果等と実務的問題点
 要するに、所定の期限内に異議申立をすれば、承継営業主要従事労働者においては、分割計画書等に承継の記載がなくとも、記載があった場合と同様の前述の承継効果が設立会社等との間に発生するものと解されます。従って分割計画書等の作成に当たっては、承継営業主要従事労働者全員の承継を定めない限り、一定の異議申立を想定したリスク管理、例えば当該労働者が分割会社で真に必要であれば、設立会社から分割会社に在籍出向させるなどの対応が必要となります。なお、事前通知義務違反と異議申立権の関係については前述のとおりです(III1 (1)[4]参照)。

3承継営業主要従事労働者以外の労働者の承継関係と異議申立権(同5条)

(1)承継法上の定め
[1]指定承継労働者は、前述の事前通知がされた日から、前述の異議申立期限日までの間に、分割会社に対し、書面により、異議を申し出ることができます。
[2] 異議を申し出た指定承継労働者は、分割会社との間で締結している労働契約は、設立会社等に承継されないことになります。
(2)異議申立権付与の効果と実務的対応
異議申立した指定承継労働者は、分割会社に残ることになる訳ですから、前述の異議申立権を持つ承継営業主要従事労働者への対応と同様、分割計画書等の作成に当たっては、指定承継労働者をまったく定めない限り、一定の異議申立を想定した、前述の在籍出向等での対応等のリスク管理が必要となります。なお、事前通知義務違反と異議申立権の関係については前述のとおりです(III1(1)[4]参照)。
(3)指定承継労働者の範囲
 なお、報告書は、更に、「承継営業」に全く従事しない労働者の場合には、分割法の効果として承継されることがないため、労働関係の移転には、民法625 条1項が適用され、労働者の同意が必要となる、としています(同10頁。図解4はこれを受けている)。これは、あたかも、指定承継労働者の資格は、承継営業主要従事労働者以外の全労働者ではなく、前提として、「承継営業」に全く従事しない労働者は含まれず、この種の労働者については、分割計画書等に記載され、異議申立期限が経過しても承継の効果は発生せず、民法625条1項が適用され、個別の労働者の同意がなければ設立会社等への承継の効果は発生しない、との解釈を示唆しているかのようにも解され得ます。しかし少なくとも、承継法自体からは、承継営業に全く従事しないか否かという区分は見出されず、この点の最終解決は、今後の通達・判例等による解決を待つ必要がありますが、文理的にも、実務的には、異議申立権の付与をもって足りるものと解されます。 会社分割に伴う新法案の骨子

4 労働協約の承継関係等(同6条関係)

(1)承継法上の定め
[1]分割会社は、分割計画書等に、分割会社と労働組合との間で締結されている労勧協約のうち設立会社等が承継する部分を記載することができます。
[2]  分割会社と労働組合との間で締結されている労働協約に、労働組合法16条の労働条件等のいわゆる規範的部分以外のいわゆる債務的部分等が定められている場合において、債務的部分の全部又は一部について分割会社と労働組合との間で分割計画書等の記載に従い設立会社等に承継させる旨の合意があったときは、その合意に関する部分は、分割計画書等の記載に従い、分割の効力が生じた時に、設立会社等に承継されます。
[3]分割会社と労働組合との間で締結されている労働協約については、労働組合の組合員である労働者と分割会社との間で締結されている労働契約が設立会社等に承継されるときは、分割法に基づく分割計画書等の記載にかかわらず、分割の効力が生じた時に、設立会社等と労働組合との間で労働協約(前項に規定する債務的部分に関する合意に係る部分を除く)と同一の内容の労働協約が締結されたものとみなされます。

(2)労働協約承継と事前通知の関係等の分割の集団的労働関係への影響
[1]「事前通知」の法的意味・効果
 前述の労働組合への分割の「事前通知」は、事実上、労働組合に分割に関する団体交渉や争議行為のチャンスを与える以上には、前述の個人宛分割通知以上に、その法的意味・効果については曖昧です。
 この事前通知義務違反の法的効果についても、承継法自体は明確には触れていません。例えば、承継法6条3項の設立会社等への当然承継との関係などいずれも未解明の問題です。しかし、違反の場合にも前述の労働契約の承継関係の選択権の個別労働者への付与のような効果を想定することは困難と解されます。

[2]持ち株会社の分社労働組合との団交義務
 ただし、通知義務違反の場合の効果として、承継法2条1項1、2号での承継関係の区分け・配分に拘らず、設立会社等と分割会社が重畳的に団交応諾義務を負担するとの解釈は、前述の立法趣旨や従前の親子会社間の団交義務に関する法理に照らしても、あり得るものと解されます。この点、例えば、現在までの判例及び労働委員会の命令例からしても、次のような場合には持ち株会社が子会社労働者への使用者性が推定される可能性が高いとされていることが参考になります(平成11年12月24日発表労働省労政局労働法規課の「持株会社解禁に伴う労使関係懇談会中間とりまとめ」III3等参照)。即ち、[1]純粋持株会社が実際に子会社との団体交渉に反復して参加してきた実績がある場合(純粋持株会社の取締役が交渉担当者として団体交渉に反復して出席してきたような場合、労働組合の団体交渉申し入れが純粋持株会社に対してなされており、純粋持株会社側がそれを否定してこなかったような場合等)、[2]労働条件の決定につき、反復して純粋持株会社の同意を要することとされている場合(賃上げ等について、子会社が反復して純粋持株会社と相談し同意を得た上で決めているような場合やその都度純粋持株会社に報告して同意を得ないと実施できないような場合等)、です。

[3]労基法等により効力発生要件が定められている場合の労働協約の承継について
 労働組合法第17条に規定する労働協約の一般的拘束力、ユニオン・ショップ協定及び労働基準法に定められている労使協定である労働協約については、組織状況を効力発生要件としていることから、その扱いについては以下の通りと解されています(報告書6頁以下)。即ち、a労働組合法第17条に規定する労働協約の一般的拘束力及びユニオン・ショップ協定の有効性については、設立会社等の事業場における労働組合の組織状況に従うこととなります。b労働基準法上の労使協定については、たとえ、労働協約として承継されるとしても、労働基準法上の免罰効については、設立会社等の事業場における労働組合の組織状況に従うこととななります。

5 分割会社と労働者との協議義務や労働者からの分割への理解・協力取得努力義務

 なお、前述(はじめに)の通り、国会審議において、会社分割法について労働者との事前協議義務等が修正追加されたことに対応し、承継法においても、分割会社に対して、事前通知のみでなく、労働者(会社分割法の協議義務の対象に対応し、労働組合ではありません)から分割等に関して、理解と協力を取得すべき努力義務の修正がなされました(同7条)。その法的効果については、ほぼ前述(I2(4)[1][2])の協議義務に関して検討したところと同様と解されます。

6 指針の制定(同8条関係)

(1)承継法上の定め
 労働大臣は、承継法に定める外、分割会社及び設立会社等が講ずべき分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置に関し、その適切な実施を図るために必要な指針を定めることができることになっています。

(2) 指針の必要性
 これは、「立法措置を講ずることと併せ、会社分割における労働関係の承継につき、実務において適切な処理を行うことができるよう、会社分割に際して、労使が留意すべき事項や実施することが望まれる事項等について、法律に基づく指針を策定することも必要である。」との報告書に基づくものです(同書10 頁)。

(3)想定される指針の内容
 前述の各所で指摘した様々な問題点への適切な指針が想定されますが、特に、実務的には、各種事前通知、異議申立書の書式、指定承継労働者の範囲、分割会社と設立会社等の労働者の労働組合との団交義務の存否・範囲の基準、分割計画書等に記載された既往の賃金等の取扱い、分割会社と労働者との協議義務や労働者からの分割への理解・協力取得努力義務の程度・内容等についても明確な解釈の示されることが期待されます。

7 施行時期等(付則関係)

 承継法は、会社分割法を導入する商法等の一部を改正する法律の施行の日から施行するものとされています。従って、前述(はじめに)の通り、早ければ本年 10月1日、遅くとも平成13年1月中に施行が予定されています。但し、同法案付則第2条中の「労働省令」及び第7条中の「労働大臣」の文言を、厚生労働省が設置される平成13年1月6日をもって、それぞれ「厚生労働省令」、「厚生労働大臣」と改めるため、中央省庁等改革関係法施行法について、所要の整備を行う次条の規定については、公布の日から施行されることになっています。
IV むすびに代えて
 はじめに、又、各個所でも触れてきたように、承継法自体も労働関係承継の大枠を示すに留まり、実務的な実施に当たっては、集団的労使関係を含めて、様々な問題の発生が予想されます。又、労使に分割の際に労働契約承継につき留意すべき点についての指針や労働者・労働組合への分割通知記載事項等に関する関係政省令が施行までに示されることになっており、実際の承継法の利用に当たってはそれらへの検討を忘れてはなりません。従って、会社分割法及び承継法の迅速・有効な利用に当たっては、今後のそれらの動向についてのフォローを怠ってはなりません。本稿が、各企業におかれて、企業再編の重要な手法としての分割を充分に検討・準備される際の一助となれば、筆者としては望外の喜びとするところであります。

(C)2000 Makoto Iwade,Japan
ビジネスガイド(日本法令)2000年7月号掲載

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ロア・ユナイテッド法律事務所

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