法律Q&A

分類:

遺族補償の受給権者でない者が、別途使用者に対して損害賠償を請求することができるか

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2002.03.18

問題

私と内縁関係にある夫が先日業務上の事故で死亡しました。私は、労災保険で遺族補償を頂いたのですが、相続権を有する夫の両親には何らの給付もなされませんでしたので、夫の両親が納得いかないと言い出し、会社を相手に損害賠償請求訴訟を提起すると言っています。このような請求は認められるのでしょうか。

回答

使用者は、遺族補償の受給権者からの損害賠償請求であれば、遺族補償の価額の限度で労働者の死亡による得べかりし利益の喪失による損害賠償責任を免れますが、本問のように受給権者以外の者からの損害賠償請求に対しては、たとえ受給権者が遺族補償の給付を既に受けていたとしても、民事上の損害賠償義務を免れるものではなく、両親の請求は認められることとなるでしょう 。
解説
1  労災保険と損害賠償との関係
 労災の被災労働者又はその遺族が、労災給付あるいは労基法上の災害補償を受けた場合であっても、民法の規定( 415 ・ 709 ・ 715 条)により使用者に対して損害賠償請求ができることには争いありません。しかしながら、学説・判例によれば、損害賠償と労災補償の相互補完性を認められ、労災補償が行われた場合は使用者はその限度で損害賠償責任を免れることとなります(三共自動車事件最判昭 52.10.25 民集 31-6-836 、労基法 84 条 2 項)。なお、判例は、労災給付のなかでも特別支給金につきましては、その福祉的給付としての側面を重視し損害賠償額からの控除を認めていないことには注意して下さい(最判平 8.2.23 ジュリ 1092-70 )
2  受給権者以外の者の損害賠償
 遺族補償の受給権者の法定順位(労保法 16 条の 2 )と民法上の損害賠償請求権の相続順位(民法 889 ・ 890 条)とは異なっていますが、これは、労災補償が、稼得能力(遺族の被扶養利益)の喪失に対する補償であることから、被災労働者の収入に最も依存していた者に遺族補償を受けさせようとしたことに起因します。よって、本問のように、民法上の相続権がない内縁関係にある配偶者が受給権者と認められ、相続権者である被相続人の両親が受給権者とならないような場合が少なからず発生することになりますが、このような場合に、遺族補償の受給権者ではない相続権者が、自己の相続分を取得する為に使用者に対して損害賠償を請求できるのは当然です。
3  損害賠償の減免
 それでは、このような場合に使用者は遺族補償の価格の限度で損害賠償の義務を免れるのでしょうか。この点については、当初遺族補償を誰に支給してもその限度で労働者の得べかりし利益の喪失の補填はなされているとして減免を認める判例もありました(昭和化学工業事件・東高昭 35.11.21 高民集 13-10-865 )が、現在では、このような減免は認めない方向で判例が確立されています(山崎鉱業所百々浦炭鉱事件最判昭 37.4.26 民集 16-4-975 、最判昭 50.10.24 交民集 8-5-1258 )。

 いずれにせよ、遺族補償の受給権者が相続人でもある場合は、使用者は、同一の填補がなされたとして、遺族補償の価額の限度で労働者の死亡による得べかりし利益の喪失による損害賠償責任を免れますが、本問のような受給権者以外からの相続人からの損害賠償請求の場合は、たとえ、受給権者が遺族補償の給付を受けていても、使用者の損害賠償責任は減免されないことに注意すべきです。
4  結論
 そこで回答の通り、両親の請求は認められることになるでしょう。

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