法律Q&A

分類:

精神障害と業務起因性

弁護士 村林 俊行(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2003.11

問題

私の夫は、A社に勤務して貨幣処理機等の保守部門を統括する部署の課長職の地位にありましたが、先日、うつ病に罹患したことが原因となり自殺するに至りました。私の夫は、自殺した時からの直近6ヶ月間は、休日労働を強いられるだけではなく、時間外労働時間も1ヶ月当たり80時間を超えており、直前月には100時間を超えていました。

また、私の夫は、自殺した月に従前の部署から保守部門に配転されたばかりで、不慣れな貨幣処理機の障害対応、クレーム処理等を数多く取り扱っており、A社製の機械の不備も原因の一端となっている現金盗取事件での全社的な対応を1人でこなし、警察署による事情聴取等をも1人で数回にわたり長時間受けていました。このような場合には、私は遺族補償給付金の支給を受けることができるのでしょうか。

回答

 うつ病発症による自殺につき、仕事の質及び責任、労働時間等が過重であることから、業務起因性が認められて遺族補償給付等の労災保険給付を受けられる可能性が強い。
解説
1.労災保険給付と業務起因性
 労災認定がなされるためには、災害が「業務上」生じたものでなければならず、具体的には災害につき「業務遂行性」と「業務起因性」の双方を有することが必要となります。そして、災害が「業務起因性」を有するものといえるためには、労働者が業務に基づく負傷又は疾病と業務との間には相当因果関係のあることが必要となります。
2.うつ病発症による自殺と業務起因性
 旧労働省は、平成11年9月14日に、心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針を発表しています(基発第554号)。これによれば、精神障害の労災認定にあたっては、[1]対象疾病(国際疾病分類第10回修正第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害とされ、うつ病もこの中に含まれます)に該当する精神障害を発病していること、[2]対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること、[3]業務以外の心理的負荷及び個体側要因(例えば、精神障害の既往歴、生活史・社会適応状況、アルコール等依存状況等)により、当該精神障害を発病したとは認められないこと、の3要件を全て充たすことが必要とされています。そして、心理的負荷の強度の評価については、多くの人々が一般的にはどう受け止めるかという客観的な基準によって評価されます。

 この点、最近の判例においても、「当該労働者と同種の業務に従事し遂行することが許容できる程度の心身の健康状態を有する労働者(以下、平均的労働者という)を基準として、労働時間、仕事の質及び責任の程度等が過重であるために当該精神障害が発病させられ得る程度に強度の心理的負荷が加えられたと認められるかを判断し、これが認められる場合は、次いで、業務以外の心理的負荷や個体側要因の存否を検討し、これが存在し、しかも業務よりもこれらが発病の原因であると認められる場合でなければ相当因果関係が肯定され、それ以外の場合は相当因果関係が否定されるという手法」を採用しています(三田労基署長(ローレルバンクマシン)事件・東地判平15・02・12 労判848号27頁以下)。

3.本設問について
本設問においては、自殺者は自殺した時からの直近6ヶ月間は、休日労働を強いられるだけではなく、時間外労働時間も1ヶ月当たり80時間を超えており、直前月には100時間を超えていたということから、労働時間に関していえば、平均的労働者にとっても特に強度の心理的負荷を与えていたものといえましょう。また、自殺者は、自殺した月に従前の部署から保守部門に配転されたばかりで、不慣れな貨幣処理機の障害対応、クレーム処理等を数多く取り扱っており、A社製の機械の不備も原因の一端となっている現金盗取事件での全社的な対応を1人でこなし、警察署による事情聴取等をも1人で数回にわたり長時間受けていたことからするならば、仕事の質及び責任の程度に関しても、平均的労働者にとっても特に強度の心理的負荷を与えていたものといえましょう。それゆえ、本設問においては、業務起因性が認められて遺族補償給付等の労災保険給付を受けられる可能性が強いものといえます。

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