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労災申請に会社が協力しない場合に労働者が採るべき措置

弁護士 木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2022年2月

私は、会社で仕事中に負傷したため、労災の申請をしようと思い、会社にそのことを伝えたところ、会社からは申請には協力しないと言われました。どうすればよいでしょうか。

そのような場合でも、事業主の証明が得られないことを説明しつつ、同証明部分以外を記載して労災保険給付の請求書を提出してください。労働基準監督署の実務上、受理することとしています。

解説
1.はじめに
 労災に遭った場合で、会社に落ち度(故意・過失)があるときは、労働者またはその遺族は会社に対して損害賠償の請求ができます(民法415条、709条、715条等)。

 しかし、会社に落ち度がないときは損害賠償請求はできませんし、会社に落ち度があっても、裁判になるとそれを証明する義務は基本的には労働者側に課せられており、費用、時間、労力を要します。しかも労働者側にも落ち度がある場合には損害賠償の額は低くなってしまいます(過失相殺といいます、民法418条、722条2項)。

 そこで、労働者ないしその遺族を援助するために、労災保険制度により療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷害補償年金、介護補償給付という各種給付が受けられるようになっています(労働基準法、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」といいます)等)。

2.労災保険給付等の申請手続き
 労働者が労働災害により負傷した場合等には、労働者等が休業補償給付等の労災保険給付の請求(労災保険法12条の8第2項)を労働基準監督署長に対して行うことになりますが、その際、労働者は労災保険給付等の請求書に必要事項を記入して労働基準監督署に提出します。請求書の用紙は労働基準監督署でもらえますし、厚生労働省のホームページからもダウンロードできます。

 事業主は、労災保険給付等の請求書において、[1]負傷又は発病の年月日及び時刻、[2]災害の原因及び発生状況等の証明をしなくてはなりません(労災保険法施行規則12条の2第2項等)。事業主は、労働者等が事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、助力しなければならず(労災保険法施行規則23条1項)、また、証明を求められたときは、すみやかに証明しなければならないものとされています(同条2項)。

 ここで言う事業主とは、労働者の雇主(通常は会社)をいいます。

3.事業主が証明を拒否した場合の措置
 ところが、事業主(会社)が、事故等が発生したこと自体は認識しているにもかかわらず、上述の証明を拒むことがあります。

 事業主の証明は、上述したとおり、[1]負傷又は発病の年月日及び時刻、[2]災害の原因及び発生状況等を証明するものであって、それが労災であることを証明するものではありません。労災として給付対象となるか否かはあくまでも労働基準監督署が判断することです。事業主は労働基準監督署長に書面で意見を申し出た上で(労災保険法施行規則23条の2)、労働基準監督署の調査に誠実に対応すればよいのですが、この点を誤解している事業主(会社)が多いようです。

 しかし、事業主(会社)が証明をしてくれない以上は、その証明のないまま労災保険給付等の請求書を提出するほかありません。この場合でも、労働基準監督署の実務上、請求書を受理しつつ、事業主(会社)に対して証明拒否理由書を提出させるという対応がとられているようです。

 

4.労災かくしになる場合について
 なお、労働者が労災等により死亡または休業したにもかかわらず労働基準監督署に対し故意に労働者死傷病報告を提出しなかったり、虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出すると、いわゆる労災かくしとして、処罰(50万円以下の罰金)を含めた厳正な処分がなさる可能性があります(労働安全衛生法100条、120条第5号、122条、労働安全衛生規則97条)ので、事業者(会社)は注意が必要です。

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