弁護士 村林 俊行(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2005.02
問題
甲は、A市役所に勤務していましたが、配属先においては職員が自席で喫煙することが許されていたことから、日頃から受動喫煙に悩まされ、目やのどの痛みを感じていました。そのため、甲は上司に対して、目やのどの痛みが受動喫煙による影響であることが記載された診断書を示して分煙措置を講ずるように再三要望していたにもかかわらず、早急な措置は困難との理由で聞き入れてもらえませんでした。このような場合、甲はA市に対して、損害賠償請求ができるでしょうか。
回答
- 甲がA市に対して、甲とA市との雇用契約に付随する安全配慮義務の不履行を根拠として、損害賠償請求できる可能性が強い。
解説
- 1.安全配慮義務について
- 甲とA市とは、雇用契約関係にあります。このような地方公共団体は、その職員に対して、地方公共団体が公務遂行のために設置すべき場所、施設若しくは器具等の設置管理又は職員が地方公共団体若しくは上司の指示の下に遂行する公務の管理に当たって、職員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負うものと解されます(自衛隊車両整備工場事件・最判昭50・02・25 民集 29巻2号143頁参照)。
- 2.受動喫煙に対する安全配慮義務とその内容について
- 我が国においては、従前においては喫煙は個人の嗜好に強くかかわるものとして喫煙に対する寛容な社会認識が存在していました。しかし、現代においては、非喫煙者を継続的に受動喫煙の状況に置くことにより眼症状(かゆみ、痛み等)や鼻症状(くしゃみ、かゆみ等)、頭痛、せき等の急性的な影響をもたらすだけではなく、ひいては慢性的な影響として肺がんを発生させる危険性もあることが多くの国で危惧されるに至っています。それゆえ、地方公共団体においては、職員に対して、職員の生命及び健康を受動喫煙の害から保護すべき一般的な安全配慮義務を負っているものと解されます(江戸川区(受動喫煙損害賠償)事件・労判 878号5頁)。
問題はその内容ですが、受動喫煙の危険性の態様・程度、被害結果等を考慮して、管理者側の時宜に応じた分煙対策の状況によって具体的に決せられるものといえます。
- 3.本設問について
- 本設問においては、A市はその職員である甲に対して、A市が公務遂行するために設置すべき場所、施設若しくは器具等の設置管理又は甲がA市若しくは上司の指示の下に遂行する公務の管理に当たって、甲の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているものと解されます(江戸川区(受動喫煙損害賠償)事件・労判878号5頁)。
そして、甲は、配属先においては職員が自席で喫煙することが許されていたので、日頃から受動喫煙に悩まされ、目やのどの痛みを感じていたことから、上司に対して、目やのどの痛みが受動喫煙による影響であることが記載された診断書を示して分煙措置を講ずるように再三要望していたとのことです。そうだとすれば、A市とすれば、この診断書により受動喫煙により甲の健康状態に異変が起こっていることを認識できたのであるから、甲の健康に配慮して、自席での喫煙を禁止したり、甲を喫煙場所から遠ざけたりすることも可能であったものといえます。
それにもかかわらず、A市は、早急な措置は困難との理由で甲の要望を聞き入れなかったとのことですから、A市は安全配慮義務に違反していると解される可能性が強いものといえます。
それゆえ、A市は甲に対して、その安全配慮義務違反と相当因果関係にある甲の損害(例えば、医療費、慰謝料)について賠償する義務があると解される可能性が強いものといえます。
ビジネスガイド平成17年2月号掲載
