法律Q&A

分類:

障害者に対する安全配慮義務

社会保険労務士 深津 伸子(ロア・ユナイテッド社労士事務所)
2005.07

問題

当社工場に、知的障害を持つ男性を雇い入れることになりました。当該男性が工場で就労するに当たって、安全についてどのような配慮が必要でしょうか?

回答

 その個々の障害者に対応した安全配慮義務の内容を吟味し、安全管理を行っていく必要があるでしょう。
解説
1 障害者雇用促進への対策
障害者の雇用促進は重要な社会的課題とされ、この課題のための主要な法律が障害者雇用促進法です。同法の改正案が今国会に提出され、従来、身体障害者又は知的障害者が雇用義務対象であったところを、改正案では精神障害者もこの対象に加えられることとなります。このように、障害者の雇用促進対策については、拡充の傾向にあり、企業もこれに対応していくことが要請されます。
2 障害者に対する安全配慮義務
 障害者雇用対策基本方針(平成15.3.28告示136号)(以下、指針という)は、事業主が行うべき雇用管理に関して指針となるべき事項において障害の種類別の配慮事項などを定めていますが、具体的に障害を有する労働者に対して、どのような安全配慮が必要となるのでしょうか。

 そこで、この問題を取り扱った近時の例として、知的障害を有する労働者Kがクリーニング工場で、作業中に機械に巻き込まれて死亡した件につき、会社とその代表者に安全配慮義務違反があるとして、損害賠償責任が認められたAサプライ(知的障害者死亡事故)事件(東京地八王子支部平15.12.10)を紹介しておきます。なお、Kは知的障害をもっていながら障害者手帳の交付を受けてはいなかったのですが、会社はKが障害団体の活動に参加していることを知っていました。

 裁判所は以下の点等から、会社側が損害賠償責任を負うと判断しています。

  • 安全衛生法による安全管理者等の選任・衛生委員会の設置・安全教育の実施・適切な人員配置等安全管理体制の整備の指示が無かったこと
  • 会社は、Kが予期せぬトラブルに臨機に対応する能力に欠けていることを知りながら、トラブル時におけるKを適切に指導監督する体制を取っておらず、Kが作業を行うについて、安全確保ための配慮を欠いていたこと

 ただし、Kは知的障害を有していたが、長年洗濯作業に従事していたことに照らすと、詰まった洗濯物をシェーカー内に入って取り除くべきでないとの認識あったと考えられるので、この点につき過失があり、その過失割合を2割が相当と判断しました。

 知的障害者に対する安全配慮義務が争われた先例として、小西縫製工業事件(大阪高判昭58.10.14労判419号28頁)では、精神薄弱者は正常者に比較して判断力、注意力、行動力が劣るものであるから、その精神薄弱の程度に応じた適切な方法手段によって安全な場所に避難させ、危難を回避することができるようにする安全配慮義務があるとして、障害者に対する特別な安全配慮義務を認め定式化していました。これに対して、本件判旨には特別な安全配慮義務なるものが何ゆえに使用者に対して義務づけられるかの判示部分が存在しません。本件判旨が労働者一般を対象にして、特段の理由なく緊急時の安全配慮義務をも使用者に課したものと理解することは難しいでしょう。むしろ、本件判旨は、「知的障害を有する」労働者たるKに対して、個別に安全配慮義務の内容を吟味した結果そのような安全配慮義務を認めたものとみるべきではないかと考えられます(小西啓文「判例解説」労判881号5頁)。

 以上にかんがみると、会社は障害者を雇入れるにあたって、障害者だからといって定式化した安全配慮を行うのではなく、前述の指針を大枠として取り入れ、さらにその個々の障害者に対応した安全配慮義務の内容を吟味し、安全管理を行っていく必要があると言えるでしょう。

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