法律Q&A

分類:

上司の性的暴行と労災

弁護士 木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2005.08

問題

会社からの業務命令で、休日に、会社の得意先の野球大会に、上司と一緒に参加しました。野球大会終了後解散となったのですが、上司とハリーポッターのビデオを観ようということになり、私の家に行ったところ、上司から胸や下半身を無理矢理触られる等の性的暴行を受けました。そのショックでPTSDに罹患し、休業を余儀なくされました。労災として休業補償給付を受けることができるでしょうか。

回答

 業務とは無関係な私的な行為に基づくものとして労災とは認められないでしょう。もっとも、もちろん上司に対する損害賠償請求は可能です。
解説
1 業務遂行性
 労働保険法による休業補償給付は、労働者が業務上の負傷による療養のために労働をすることができず、その間の賃金を受けられなくなった場合に支給されるものですから、労働者の負傷が「業務上」の災害によるものといえることが必要になります。

 そして、この「業務上」とは、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあることを意味するものと考えられています(業務遂行性)。

2 裁判例
 では、本件では業務遂行性が認められるのでしょうか。

 本件とほぼ同様の事案に関する地公災基金東京都支部長(東京都海外事務所)事件(東京地裁平成16年12月6日判決・労判887-42)があります(この裁判例は、地方公務員災害補償法に基づく公務災害認定の事案ですが、「公務」性と「業務」性の判断基準は同じものといえます)。

 この裁判例は、「公務」性を否定しているのですが、その理由として、「公務終了後1時間30分以上経過した後に原告の自宅で発生した本件性的暴行は、就業時間外かつ事業施設外で発生」したものであり、「原告と上司が原告の自宅でビデオを見るということは、およそ原告が担当していた職務遂行上不可欠の行為とはいえず」、「上司が原告の自宅でビデオを見るということは、このことを職務上強制できるような性格のものでもないから、およそ職務命令ということはでき」ないといった事情からすれば、原告が上司を自宅に招き入れたことは、公務とは無関係な勤務時間外かつ事業施設外の私的な行為にすぎず、これを公務としての支配従属関係に基づいたものということはできないということを述べています。

3 本件へのあてはめ
 本件においても、野球大会は会社の業務命令によるものだとしても、それが終了した後の出来事であること、ハリー・ポッターのビデオを観るということはあなたが業務を遂行する上で不可欠のものとはいえず、また上司が職務命令を出してあなたに強制できるような事柄でもありません。

 よって、就業時間外かつ事業場外の私的な行為であり「労働契約に基づき事業主の支配下にある」際の災害ということはできず、「業務上」の災害とは認められず、休業補償給付を受けることはできないものと考えられます。

4 損害回復のための他の手段
 もっとも、この上司の行為は、あなたの人格権を踏みにじる悪質な行為であり、不法行為ですから、上司に対して、慰謝料を含めた損害賠償請求を行うことはもちろん可能です。

 また、会社に苦情・適切な対処を求めたにもかかわらず会社が適切な対応をしなかったような場合には、職場環境調整義務違反として、会社に対する損害賠償請求が認められることもあるでしょう。

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