法律Q&A

分類:

週末帰宅型通勤と労災

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2005.12

問題

私の夫は、A保険会社のT営業所の所長として勤務していましたが、自宅とT営業所が遠距離であったことから、平日は社宅で過ごし金曜日に自宅に帰宅し、日曜日の午後に自家用車で社宅に帰るという「週末帰宅型」通勤の生活をしていましたが、先週の日曜日の午後に自宅を出発し社宅に帰宅する途中、運転を誤って自爆事故を起こし死亡しました。確かに、自宅から社宅へ向かう途中であることを考えれば、通勤途中といえないのかもしれませんが、週末帰宅型通勤であることを考えれば、通勤途中と言えなくもないと思います。なんとか、通勤災害と認めてもらうわけにはいかないものなのでしょうか?

回答

 本件においての争点は、週末帰宅型通勤において、労働者が週末の自宅における家族との生活を終え、自宅から社宅に帰る途中で交通事故を起して死亡した場合、それにより遺族が被った損害が、遺族が通勤により被った災害(通勤災害)といえるか否かです。
解説
1通勤災害の成立要件
 通勤災害とは、「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」(労災保険法7条1項2号)とされており、通勤とは、「労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及びにより往復することをいい、業務の性質を有するものを除く」(同条2項)とされています。本件において問題となるのは、労働者の自宅から社宅までの往復行為が「住居」と「就業の場所」とのそれといえるか、もし言えるとしても、事故当日は日曜日であり労働者がその日に業務に従事する予定が存在しない以上、就業に関して移動したものと言えず、どちらにしても、通勤災害には該当しないのではないかという点です。なお、自宅から直接就業の場所へ移動する場合は、自宅を「住居」として取扱うこととなっています(平成7年2月1日基発39号)。
2就業の場所への移動か否か
 この点については、労働者が、労働者の自宅から赴任先住居である社宅に自動車で移動する行為は、「住居」から「住居」への移動としか言えず、通勤の定義には直ちには該当しないことは認めざるを得ませんが、例外的に「勤務前日に帰省先住所を出発して赴任先住居に到着し同所で一泊した後、翌日に就業場所へ移動する一連の動きを住居から就業の場所への移動と捉える余地はあります。
3就業に関して行われたものか否か
 帰省先住居から赴任先住居への勤務前日における移動が、「就業に関して」行われたといえるためには、このような移動を勤務前日に行うことが社会通念上相当と認められ、かつ、当該労働者がその移動を現に反復継続して行い、又は行う意思を有しており、他の目的のための移動ではなく翌日の勤務のための移動であることが必要です。
4判例とあてはめ
 本件事例と同様な事案に関し、判例は、「勤務前日に帰省先住所を出発して赴任先住居に到着し同所で一泊した後、翌日に就業場所へ移動する一連の動きを住居から就業の場所への移動と捉え、これを「通勤」の概念に含まれうるものと解し、その上で、通勤の他の要件を満たす場合には、「通勤」に該当すると判断するのが相当である。」「帰省先住居から赴任先住居への勤務前日における移動が、「就業に関して」行われたと認められるためには、[1]当該帰省先住居から赴任先住居への移動を勤務前日に行うことが社会通念上相当と認められ、[2]当該労働者が当該帰省先住居から赴任先住居への勤務前日の移動を現に反復・継続して行い、又は行う意思を有しており、かつ、[3]当該移動が、他の目的のための移動ではなく、翌日の勤務のための移動であること以上に該当することが必要であると解するのが相当である。」として、本件自宅から本件社宅及び勤務先への移動には最短でも約3時間30分かかること、執務開始時間が午前9時であること、単身赴任が始まってから月に2~4回程度労働者は自宅に帰宅していること等の事実から、通勤災害であることを認めました(高山労基署長事件 岐阜地裁平 17・4・21 労判894-5)。なお、同種の判例として、能代労基署長事件(平12・11・10 労判8000-49)があります。
4留意点
 以上のことから、今後は、週末自宅型通勤の場合に、帰省先自宅から赴任先自宅までの移動中に生じた災害についても、安易に自宅から自宅への移動だから労災には該当しないと考えるのではなく、通勤災害に当たりうる場合もあることを念頭に置き、帰省先自宅から赴任先自宅までの移動の合理性につき、綿密な検討が必要ということになります。なお、先ほど解散となった第162通常国会で、本件のような場合も通勤災害の対象とする労災保険法の改正法案が提出されましたので、今後の立法の動きにも注目すべきでしょう。

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