法律Q&A

分類:

いじめ自殺と安全配慮義務違反

弁護士 木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2006.03

問題

私の子Aは、3年前に甲会社に就職したのですが、入社直後から、職場の内外で先輩Bにいじめられ、それを苦にして自殺しました。実際にいじめをしたB及びいじめに対して何らの処置もとらなかった甲会社に対して損害賠償請求はできるでしょうか。

回答

下記のとおり、いじめと自殺との因果関係が認められれば、Bに対する損害賠償請求が可能である。また、Bによるいじめを甲会社が認識できるような事情があれば、甲会社に対する損害賠償請求も可能である。
解説
1 Bに対する責任追及
 (1)実際にいじめを行ったBに対しては、いじめとAの死亡との間の因果関係が認められる限り、不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。
 そして、この因果関係は、Bのいじめが長期間、執拗・悪質であったり、「死ねよ」等直接死を連想させる言葉の暴力を用いていた場合、他にAが自殺するような原因が見当たらない場合等に認められるものと考えられます。

 誠昇会北本共済病院事件(さいたま地裁平成16年9月24日判決・労判883-38)も、先輩看護士から(この病院の看護士間では、先輩の言動が絶対的とされ、後輩を服従させる関係が継続していたようです)、[1]勤務時間終了後も遊びに付き合わせたり、自分が帰るまで帰宅を許さず、残業を強制された、[2]家の掃除、洗車、風俗店等への送迎等の私用に使われた、[3]職員旅行の際、飲食代約9万円を負担させられ、また女性従業員と性的な行為をし、それを撮影するよう強制された、[4]仕事中に、「死ねよ」「殺す」などの発言・メールを受けた等のいじめを約3年間にわたって受けた看護士が自殺した事案につき、上記の要素を挙げていじめと自殺との間の因果関係を認めています。

 (2)もっとも、Bは単なる一従業員であり、現実に損害賠償金を支払う能力が乏しい場合が多く、これでは、たとえ裁判で勝訴判決を得たとしても画に書いた餅になってしまいます。

 そこで、甲会社に対する損害賠償請求が認められないかが検討されることになります。

2 甲会社に対する責任追及
 (1)一般に、使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づいて、信義則上、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)があるものとされています(川義事件・最高裁昭和59年4月10日判決・民集38-6-557)。

 そして、いじめによっても生命・身体の危険は生じることから、使用者は、労働者に対し、信義則上、職場の上司及び同僚からのいじめ行為を防止して、労働者の生命・身体を危険から保護すべき安全配慮義務を負っていることになります。

 ですから、BのAに対するいじめを認識することが可能であったにもかかわらず、甲会社がいじめを認識しないで、または認識しつつもこれを放置して、いじめを防止する措置を採らなかった場合には、甲会社に安全配慮義務違反があり、同社に対する損害賠償請求が認められることになります。

 (2)ここで注意しなければならないのは、会社がいじめを具体的に認識していなくとも、その可能性があれば安全配慮義務違反が認められるということです。

 この点、前掲誠昇会北本共済病院事件判決は、[1]職場でのいじめが約3年という長期間にわたって行われていたこと、[2]職員旅行における出来事(女性職員と性的な行為をさせ、それを撮影しようといういじめを企てたものの、これを嫌がった看護士が無理矢理酒を飲んで急性アルコール中毒となり、病院に運び込まれたというもの)や、病院内の会議におけるやりとり(看護士の様子がおかしいことが会議の中で話題になった際、当該先輩看護士が、「やる気がない」「覚える気がない」などと看護士を非難したというもの)からすれば、使用者たる病院はいじめを認識することが可能であったにもかかわらず、これを認識していじめを防止する措置を採らなかったとして、安全配慮義務違反があったとしています。

 (3)本件においても、上記のような甲会社がいじめを認識することが可能な事情が認められれば、甲会社の安全配慮義務違反を追及し、損害賠償請求をすることができます。

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