法律Q&A

分類:

労基署の手持ち情報の開示

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2006.07

問題

A社の従業員Bが過労死し、労災認定もおりたところ、Bの遺族らは、A社に損害賠償の訴訟を起こしました。A社は、Bの自己健康管理の不十分や基礎疾病などが影響しての死亡と考えており、過失相殺などでの減額があるはずで全面的に賠償に応じるのは納得できません。しかし、それらのB側の事情についてはA社側で証明する必要があると聞きました。しかし、相手の様子は分かりません。そこで、労災を認定した労基署保管の資料は裁判の中で手にはいらないでしょうか?

回答

 裁判所で文書提出命令の申立により、「災害調査復命書」の一部を手に入れることができる場合がありますので、検討すべきです。
解説
1 金沢労基署長事件最高裁決定
 今まで、労基署の保管する資料に関しては、質問のような労災民事賠償請求訴訟等で、労使双方が関係文書の提出に同意していても提出が拒否されてきました。そんな中で、最近、金沢労基署長事件・最三小決平成17.10.14(労判 903号5頁。以下、本決定という。詳細については拙稿「判例解説」労判908号5頁以下参照)は、労基署の保管する労災事故に関する調査報告書である、災害調査復命書につき、一部とは言え、その開示範囲に関する基準を示し、その中の「調査担当者が職務上知ることができた『本件事業場の安全管理体制、本件労災事故の発生状況、発生原因等』の被告会社にとっての私的な情報」に係る部分が民訴法220条4号ロ所定の文書(公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの)に該当しないとする判断を示し、開示の可能性を示しました。そこで、質問のような、労災民事賠償請求事件において、被災労働者では、使用者等の安全配慮義務違反につき、使用者等については、労働者の過失相殺事由の各立証に、一部とは言え災害復命書が利用できることになりました。このことの意義は大きいものがあります。
2 提出させられる部分は
 本決定は、災害復命書には、[1]調査担当者が職務上知ることができた事業場の安全管理体制,労災事故の発生状況,発生原因等の会社にとっての私的な情報(「[1]の情報」)と,[2]再発防止策,行政上の措置についての調査担当者の意見,署長判決及び意見等の行政内部の意思形成過程に関する情報(「[2]の情報」)」との区分があるとしたうえで、「[1]の情報に係る部分」は、(ア)会社の代表取締役や労働者らから聴取した内容がそのまま記載されたり,引用されたりしているわけではなく,調査担当者において,他の調査結果を総合し,その判断により聴取内容を取捨選択して,その分析評価と一体化させたものが記載されているもので、この「[1]の情報に係る部分」が「提出されることによって公務の遂行に著しい支障が生ずるおそれが具体的に存在するということはできない」との判断を示しました。<  つまり、裁判の中で文書提出命令という手続を使って入手できるのは、上記「会社の代表取締役や労働者らから聴取した内容」につき、「調査担当者において,他の調査結果を総合し,その判断により上記聴取内容を取捨選択して,その分析評価と一体化させたものが記載」されている部分となります。/dd>
3 他には方法はないか
 なお、裁判所を使わない情報入手方法では、[1]弁護士法23条に基づく照会請求や、[2]行政機関の保有する情報の公開に関する法律(行政情報公開法)に基づく請求もあり得ますが、[1]では、一部の図面程度しか開示されず、[2]でも拒否されると結局裁判所に頼らざるを得ません。そうすると、既に裁判になっている場合は、最初から文書提出命令を利用するのが妥当と考えます。ただ、いずれの場合も、担当される弁護士と良く相談されて進めて下さい。 

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