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業務上災害で骨折した社員の通院のためのタクシー代は労災給付されるか

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2001.03.23

問題

業務上災害で足を骨折し、入院中の社員がいます。このたび退院し、自宅から通院することになりました。病院が公共交通機関では不便な場所にあり、また、足も不自由なため通院にはタクシーを利用するとのことです。このような場合、通院費用についても申請により支給されるのですか。

回答

 自宅から病院への距離が4km以内で適当な公共交通機関がないといった場合、タクシー代も支給される
 原則として、自宅から病院への距離が4㎞以内で、足の具合や適当な公共交通機関がない場合には、タクシー代も療養補償給付の内の「移送」費として支給されます。なお、診療に適した医療機関が自宅から4㎞の範囲内にない場合でも4㎞を超える最寄の機関であれば支給されます。
解説
1 労災保険における補償給付の種類
 業務災害に関する労災保険給付は、療養補償給付・休業補償給付・障害補償給付・遺族補償給付・葬祭料・疾病補償年金・介護補償給付の七種類あり、通勤災害の場合も業務災害の場合に準じた保護が与えられていますが、ここで問題となっている通院費用はその内の療養補償給付の対象となります。
2 療養補償給付の内容
 療養補償給付とは、労働者が業務上負傷しまたは疾病にかかった場合に、その疾病について行なわれる給付であり、療養の給付と療養費の給付の二種類ありますが前者が原則です。療養の範囲は、診察、薬剤、または治療材料の支給、処置・手術その他の治療、病院または診療所への収容、看護、移送等です(労災保険法 13条)。
3 「移送」としての通院費用の支給
 上記「移送」(労災保険法13条2項6号)というのは、傷病労働者を輸送することをいい、災害現場、自宅等からの医療機関への移送、転院、通院に伴う移送等を含みます。そして、通院費用については、通院距離が4㎞以内でも交通機関を利用する距離が2㎞を超える場合や、診療に適した医療機関が自宅から4㎞の範囲内にない場合でも4㎞を超える最寄の機関であれば支給されます(昭 37.9.18基発951号、昭48.2.1基発48号)。但し、その金額は、移送の費用として、必要と認められる限度で支給されます(昭37.9.18 基発951号)。
4 タクシー代は支給されるのか
 タクシー代は「移送」費として支給されるのかという点については、次のように、必要と認められる限度で支給されるものと解され、現実に支給されています。即ち、労災保険法や関連通達もタクシーを支給対象交通機関としてを排除していないこと、逆に、移送費を療養補償給付として申請する際の添付資料として「国鉄又はバス等...については」領収書「の添付を必要としない」(昭37.9.18基発 951号、昭48.2.1基発48号)としていることの反対解釈として、これらの公共交通機関以外の交通機関たるタクシー等についても、領収書の添付をもって、必要と認められる限度で支給されるものと解される訳です。

 勿論、「必要と認められる限度で支給される」訳ですから、設問のように、医師の意見でも足の具合から公共交通機関を利用することが困難な場合や、適当な公共交通機関がない場合などの必要性の有無は吟味されます。
5 結論
 そこで回答の通り、支給されるものと解されます。

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