法律Q&A

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職務上の発明・著作は誰のものか?

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2000.03.08

 企業社会における知的財産権は、個人的な独創によることもあり得るが、多くは、企業内で、企業の資金と事業施設・ノウハウを利用して、従業員や役員等(以下、単に「従業者」という)が業務、またはこれに関連して発明・制作・成立(以下、「発明等」という)されている。しかし独創による場合を含め、従業者の発明等の権利を、全て無条件に企業が取得するような事態になれば、それらの従業者の創造意欲を喪失させ、ひいては企業の発展を阻害することにもなりかねない。そこで、現行法も、これらの問題に関しては、概ね、以下のような、職務発明(特許法35条。実用新案法、意匠法も同条を準用)や職務著作(著作権法 15条)に関する規定をおき、従業者の権利と企業の権利の調整を図っている。

◆職務発明
  まず、職務発明については、次の要件を満たすものに限っては、従業者の発明を企業が承継することができる。即ち、当該発明が

(1) 使用者の業務範囲に属し
(2) その発明に至った行為が、従業者の現在又は過去の職務に属し
(3) 職務発明規程等により企業が相当の対価(補償金)を発明者に支払う場合

である。対価については、発明により企業が受けるべき利益の額及びその発明がされるについての企業の貢献度等を考慮して定めることになっているが(特許法 35条4項)、実際には、かなり低い名目的な金額となっている場合が多く、紛争も多い。具体的な事情を考慮・査定したうえで補償費140万円を認定した判例もある(東京地判昭和58.9.28無体裁集15巻3号844頁等)。

◆職務著作
  次に、企業の作成するソフト、パンフレット、デザイン等の職務著作に関しては、

(1) 会社の発意に基づき
(2) その作成経過、性質等から、その内容が会社の組織の活動である共同作業によって生み出されたような場合には
(3) その会社の業務に従事する者が会社の名前で公表又は公表を予定しているものであれば(東京高判昭和60.12.4判時1190号143頁。但し、この条件はソフトには不要。著作権法15条2項)

当然に無償で、会社自体の著作物とされ、企業が著作権のみならず同一性保持権等の著作者人格権も取得する。但し、作成当時個別の契約や就業規則などで従業者に著作権が帰属するなどの定めがあればその定めに従うことになる(同15条1項、2項)。
  終身雇用の崩壊による企業への忠誠心の低下と技術革新が企業の運命を左右する時代を迎え、今後は、職務著作への対応(法律上は義務なし)を含めて妥当な補償金算定方法、インセンティブ等を確立しなければ、優秀な従業員の流出は回避できないだろう。

★知的所有権(知的財産権)
  • 工業所有権 ~ 特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4種の総称。科学・工業技術、最近ではビジネスの方法に関するものまである。
  • 著作権 ~ コンピューター・プログラム・ソフト(文中、ソフト)を含む。

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