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能力・成果主義人事制度下での人事考課や能力不足のスカウト人材の処遇はどのようになるか - 2

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
平成12年2月7日

能力・成果主義人事制度下での人事考課の当否や適法性が争われることがあるようだが、どのような点に注意すべきか?

判例は、概して、人事考課における企業の裁量権を広く認めているが、例外的に、均等法等の法令違反や裁量権濫用の可能性も指摘しており、学説の提唱する公正評価義務の要件を踏まえた制度作りが望まれる。

解説:第2 人事評価・考課における裁量と責任

I 裁判例における評価・人事考課の裁量性の承認
従前の多くの裁判例においては、原則として、使用者の人事評価・考課における査定権者・査定項目の決定、査定の幅・基準とその運用等における企業の裁量権を大幅に認め、例外的に、労基法3条の均等待遇、同法4条の男女同一賃金、均等法6条の処遇についての男女差別取扱い禁止(例えば、男女差別賃金の差額賠償等を認めた芝信用金庫事件・東京地判平成8.11.27労判704-21、塩野義製薬事件・大阪地判平成11.7.28労判770-81等参照)、労組法7条の不当労働行為等による規制と著しい裁量権の濫用の場合のみ規制を加えるのみであった(ダイエー事件・横浜地判平成2・5・29労判579-35では、上司が個人的感情や報復目的など不当な目的をもって低い査定をしたときは裁量権の乱用となり、損害が発生した場合には不法行為となるとしたが、結論的には、裁量権の濫用を否定し、安田信託銀行事件・東京地判昭和60・3・14労判451-27では、人事考課は、その性質上企業の「広範な裁量に委ねられている」とした。同旨、光洋精工事件・大坂高判平成9・11・25労判729-39堺市農協事件・大阪地判平成10・1・30労判734-20、全国商工会連合会事件・東京地判平成10・6・2労判746-22等)。
II 人事考課における企業の責任・考課裁量権の限界への検討の必要の発生―人事考課裁量権濫用、公正評価義務をめぐる学説の展開とその実務的意義
 以上の裁判例における使用者の人事考課等に対する大幅な裁量権の承認に対して、学説は、「(1)公正かつ客観的評価制度の整備・開示、(2)それに基づく公正な評価の実施、(3)評価結果開示・説明義務」などの要件の充足を提唱し、使用者の裁量権に対して、裁判例の言及する、例外的な裁量権濫用の基準をより明確にし、その根拠として使用者の公正評価義務を措定し、使用者の人事考課の裁量権に一定の限界を設ける等の作業を試みている(以下、土田・前掲季労 185-6以下)及び同論文の紹介する文献参照)。

しかし、未だこれらの学説そのものを採用したと見られる裁判例は現れてはおらず、実務的には、念の為、かかる学説を踏まえた請求・主張等が労働者側からなされ得ることを踏まえた対応を準備しておけば足りるだろう。なお、これらの学説が呈示する上記基準は、概ね、多面的評価制度や360度評価制度等、整備・洗練された先進的成果主義賃金体系の実態の後追い的なものとなっている感を否めない。かかる意味で、学説は、それらのモデル的評価制度を標準化、オーソライズする機能を持っているとも評し得るもので、使用者に過度の負担を強いるものとはなっていないようだ。

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