法律Q&A

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退社時に持ち物検査を実施してもよいか

弁護士 石居 茜(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2004.04.23

先日、当社のある社員が数度にわたり、職場の備品を持ち出していたことが発覚しました。そこで、今後そうしたことが生じないよう、退社時に社員のかばんの中を見せてもらう所持品検査の実施を考えていますが、問題ないでしょうか。なお、この検査については、就業規則に定め、労働組合の同意を得てから実施したいと考えています。

高価品が持ち出される可能性があり、それを防ぐ必要性があるなど、所持品検査の具体的必要性がある場合でなければ適法とはされないでしょう。

1 所持品検査についての最高裁の判断基準
 最高裁は、使用者がその企業の従業員に対して行う所持品検査について、所持品検査は、被検査者の基本的人権に関する問題であって、その性質上常に人権侵害のおそれを伴うものであるから、たとえ、それが企業の経営・維持にとって必要かつ効果的な措置であり、他の同種の企業において多く行われるところであるとしても、また、それが労働基準法所定の手続を経て作成・変更された就業規則の条項に基づいて行われ、これについて、従業員組合又は当該職場従業員の過半数の同意があるとしても、そのことの故をもって当然に適法視されるものではないとしています。

 そして、所持品検査は[1]それを必要とする合理的な理由に基づいて、[2]一般的に妥当な方法と程度で、[3]制度として職場従業員に対して画一的に実施され、[4]就業規則その他の明示の根拠に基づいて行われるときは、他にそれに代わるべき措置をとりうる余地が絶無ではないとしても適法となるとしています。

 また、かかる所持品検査が行われるときは、従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当性を欠く等、特段の事情がない限り、検査を受忍すべき義務があるとしています(西日本鉄道事件・最高裁第2小・昭43・8・2判決・労判152・34)。

2 その他の裁判例
 その後の裁判例は、基本的には上記最高裁の基準を前提に、所持品検査の必要性と検査の方法の相当性を検討して、所持品検査の適法性を判断しています。

 例えば、陶食器、衛生陶器等の販売会社において、工場の出入りの際に、守衛が手提袋を開けて見せるように求める行為の適法性が争われた事案では、当該会社の各所に多量の銅地金類等が貯蔵されており、外部への持ち出しも可能であるため、持ち出しを防ぐために所持品検査の必要性が高いこと、所持品検査の方法として、日常品以外を所持していると思われる者に対し質問し、外から所持品に触り、まれに所持品の中身を見せるよう求める程度であって、身体検査に類するようなことは行わないため、人権侵害のおそれが少ないことを理由として、所持品検査は適法であると判断されています(東陶機器事件・福岡地裁小倉支部昭 46・2・12判決・労判152・27)。

 また、私鉄の使用者が、乗車料金の抜き取りを防止するために就業規則において所持品検査を定め、さらに、検査の際に発見された金銭が、公金か私金かの区別がつくようにするため、同規則において勤務中の私金の携帯を禁止することは、ワンマンバスの乗務員についてはやむを得ず適法であるとした判例もあります(西日本鉄道事件・福岡地裁小倉支部昭48・5・31判時726・101)。

 さらに、電子部品メーカーの行った所持品検査の適法性が争われた事案では、企業の機密漏洩を未然に防ぐ具体的必要性があり、具体的必要性が生じたとき以降、退門しようとする従業員に対し、就業規則、服務規律等に基づき画一的に実施されたもので、その方法も、鞄その他の所持品を守衛所前のカウンターに乗せてもらい、従業員本人に開けてもらって中を確認し、場合によってはポケットの上から手で触れてみて確かめるという方法であって、ことさら従業員に屈辱感を与えるというものではなく適法であると判断されています(帝国通信工業事件・横浜地裁川崎支部昭50・3・3判決・労判223・47)。

 他方で、所持品検査が違法とされたケースもあります。

 バス会社の使用者がなした通勤用自家用車の検査の適法性が争われた事案では、所持品検査の方法及び程度は妥当なものでなければならないから、検査の対象となるものは乗務と密接に関連するものに限られ、特段の事情のない限り、通勤に使用する自家用車内は検査の対象とはならないと判断しました(芸陽バス事件・広島地判昭47・4・18・判時674・104)。

 また、ワンマンバスの乗務員の運賃横領を防止するため、私物(私金)の提示を求めた事案では、会社が他の防止策をとってきたが、横領はなくならず、所持品検査の効果が、まだなお認められることから、所持品検査制度自体は適法であるとしながら、その方法について、年に1,2回しか受けない者もおれば日に2度も受ける者がいるなど、会社には所持品検査実施に関しての検査者に対する一律的・画一的実施の要請に対する配慮が足りなかったこと、さらに、被検査者に何等の不審点がないのに着衣の上から検査者が手で触ったり、全てのポケットの中身を裏返しさせたりするなど、被検査者に多大な屈辱感・侮辱感を与える確認行為であり、所持品検査の方法・程度に行き過ぎがあったとして、結論として違法と判断しています(サンデン交通事件・山口地裁下関支部判決・昭・54・10・8・労判330・99)。

3 結論
 以上より、所持品検査は、それを実施する合理的な必要性があり、人権侵害とならない相当な方法でなければ認められないでしょう。設問の事案では、高価品の持ち出しが可能な状況にあるなど、具体的必要性がなければ認められない可能性が高いと考えます。また、所持品検査の具体的必要性がある場合でも、検査方法は身体検査等に及ばないなど、被検査者に屈辱感を与えない方法によることが必要となるでしょう。

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