法律Q&A

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グループ企業などへの出向や転籍に従う必要はあるのか?(P3-7)

(1)出向の意義・類型
 一般に、出向とは、労働者が使用者(出向元)の指揮監督の下から離れて、第三者(出向先)において、その指揮監督を受けて労務の給付を行う労働形態をいいますが、大別すると、出向元との雇用契約に基づく従業員たる地位を保有したまま出向先の指揮監督の下に労務を提供するいわゆる在籍出向(出向)と、出向元との雇用契約と解消したうえで出向先との間で新たに雇用契約を締結するいわゆる転籍出向(転籍)とがあります。
(2)出向命令の有効要件
 出向に対して裁判所は、出向が労働契約上労務提供を約束した相手以外の者に対して労務提供関係を発生させる点で、配転とは質的に異なる性格(労務提供の相手方の変更)を持っていることを意識して、一方で、出向と配転とは根本的に異なるものとして取り扱い、企業において実際上の同種の出向が多数行われてきたとしても、労働協約または就業規則に使用者が出向を命じることができるとの明確な定めがない限り使用者の出向命令権は認められない、としてきました(日立電子事件・東京地決昭41.3.3 労民17-2-36等)。そのような考え方から、就業規則中に会社外の業務に従事するときは休職にする旨を定める休職条項の間接的な規定があるだけでは、出向命令の根拠にならないとされたりしてきました(日東タイヤ事件・最判昭48.10. 19 労判189-53等)。
(3)密接なグル-プ企業間の出向
 しかし、他方で、以上の考え方とは異なり、実際の会社では出向は、親子企業間や密接な関連企業間での業務提携、人事交流などのために配転と同様に日常的に行われ、従業員も採用時からこれを当然のこととして受け入れている場合があり、裁判所でもこのような密接な企業間の日常的な出向の現実を踏まえ、就業規則などの明確な規定がない場合でも、採用時や入社後の勤務過程の従業員の包括的同意の可能性を認めるもの現れています(興和事件・名古屋地判昭 55.3.26労判342-61)。
(4)判例の要約
 結局、以上の判例を整理すると(菅野和夫「労働法」第5版補正2版414以下参照)、出向を命じることが出来るためには、就業規則や労働協約で出向についての明確な定めがなされていることが必要であることが前提とされますが、判例は、出向命令が有効とされるためには、それらのみでなく、出向により出向元の企業と出向先の企業とが密接な関係にあり、しかも出向により賃金・退職金その他労働条件等の面での不利益が生じないよう制度が整備され、当該職場で労働者が同種の出向を通常の人事手段として受容していることがことが必要であると理解されています。なお、配転におけると同様に出向命令についても権利濫用法理による救済があり得ます(この一般論を判示する川崎製鉄事件・大阪高判平12.7.27労判792-70等参照)。
(5)転籍命令の有効要件
 転籍では、前述(1)の通り、従前の会社の関係でいえば雇用関係の終了(解雇)であり、移動先の会社との関係では雇用関係の成立(雇用契約の締結)ということになります。元の会社の身分を有したまま他の会社に就労する在籍出向と異なり、元の会社の身分を失うことが転籍の最大の問題ですから、判例は、転籍出向には従業員の同意が原則的には必要とし(日立製作所横浜工場事件・最判昭48.4.12最判集民事109-53等)、事前の「包括的同意」の可能性については原則として認められていません(三和機材事件・東京地決平成4.1.31判時1416-130等)。これが認められる余地があるのは、事前の転籍先・労働条件の明示・一定水準維持への配慮や、それらに基づく採用時又は中途での同意や(日立精機事件・東京高判昭63.4.27労判536-71)、転籍先と転籍元が同一会社と同一視できる程度の密接な人事交流がなされているような系列企業グループ内の異動の場合に限られています(日立精機事件・千葉地判昭56.5.25労判372-49、前掲・興和事件等参照)。

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