法律Q&A

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長期の年休(連続休暇)は取得できるのか?(P4-18)

(1)年休に対する時季変更権とは
 従業員が年次有給休暇(年休)を請求した場合にそれを会社側で変更することができる場合があります。この問題は、その年休が労基法39条の法定年休の場合には、同法39条4項但書の使用者の時季変更権によって処理されることになります。ここでは「使用者は労働者の請求する時季に有給休暇を与えなければならない」が、それが「事業の正常な運営を妨げる場合には」会社は他の時季にそれを変更することができること(時季変更権)が明記されています。従業員の年休の時季指定に対して会社がこの時季変更権を行使した場合、時季指定による休暇日の特定という法的効果の発生が阻止され、従業員が指定した日は年休とならず、その日の労働義務は消滅しません。しかし、もし客観的にみて事業の正常な運営を妨げる場合に当たらなければ、使用者はそもそも時季変更権を持たないため、かりに時季変更権が行使されても、従業員の時季指定の効果は阻止されません。この場合、従業員が会社の意思に反してその日に欠勤しても、年休が成立している以上、会社がこれを無断欠勤として懲戒処分などをすることはできず、従業員には賃金請求権があります。
(2)「事業の正常な運営を妨げる場合」とは
 この場合に当たるかどうかについての一般的な判断基準としては「当該労働者の所属する事業場を基準として事業の規模・内容、当該労働者の担当する作業の内容・性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等、諸般の事情」を考慮して判断すべし、とされています(電々公社此花電報電話局事件・最判昭 57.3.18民集36-3-366)。
(3)年休付与には配慮義務が
 更に、一連の最近の最高裁判決(弘前電報電話局事件・最判最判昭62.7.10民集41-5-1229、横手統制電話中継所事件・最判昭62.9.22 労判503-6等)は、労働者の時季指定に対して使用者はできる限り労働者が指定した時季に休暇を取ることができるように、状況に応じた配慮をなすことを要請される、と年休付与に関する使用者の配慮義務を設定しています。その上で判決は、代替者の配置について勤務割による勤務体制がとられている事業においても、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能であるのに使用者がそのための配慮をしなかったために代替勤務者が配置されなかったときには、必要配置人員を欠いたからといって事業の正常な運営を妨げる場合に当るとはいえない、としています。
(4)長期休暇の場合には事前調整が必要
 しかし、長期の年休の請求に対しては、時事通信社事件判決(最判平4.6.23民集46-4-306)は、(3)のような年休付与に関する配慮を認めながらも、労働者が長期かつ連続の年休を取得しようとする場合は、それが長期のものであればあるほど、使用者において代替勤務者を確保することの困難さが増大するなど事業の正常な運営に支障を来たす蓋然性が高くなり、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生ずる、としました。そして、労働者がこの調整を経ることなく長期かつ連続の年休の時季指定をした場合には、これに対する使用者の時季変更権の行使については、その年休が事業運営にどのような支障をもたらすか、同休暇の時季、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関し、使用者にある程度の合理的な範囲内で裁量的判断の余地を認めざるを得ない、としました。
 つまり、従業員は、長期連続休暇を申請する場合は、会社との間で、会社の業務計画、他の従業員の休暇等の事情との事前調整を取る必要があり、従業員が、この調整を行う余裕もない年休申請をしたり、会社が他の従業員との関係などからやむを得ず求めた調整に、まったく応じないような対応を取った場合には、会社がこの申請について時季変更権を行使して、別の時季に変更したり、分割したりされることがある、ということです。

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