法律Q&A

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役員報酬・役員の退職金及び賞与の決定

弁護士 難波知子 2019年12月:掲載

代表取締役が役員の報酬・退職金及び賞与を勝手に決めることはできますか。

私はA社の代表取締役社長ですが、A社の取締役会でいつも私に反対の意見を言い逆らう取締役Bがいます。頭にきたので、次回の役員改選の際にはBの役員報酬を減額しようと思いますが、私が独断で決定してもよいでしょうか。

代表取締役といえども独断で役員の報酬・退職金及び賞与を決めることは許されません。

1.取締役の報酬
 会社法361条は「取締役の報酬等については定款に定めていないときは、株主総会の決議による」と規定し、取締役の報酬等を定款又は株主総会の決議で決定することを要求しています。この趣旨は、取締役自身による報酬決定を認めると、お手盛りが発生して会社の利益が害されることがあるのでこれを防止することにあります。変更が大変なので定款に定められることはほとんどなく、実際には、ほとんどの場合が株主総会の決議によって決定されています。
 なお、「報酬等」には、現金以外の現物報酬も含まれ、会社法では「賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益」も報酬と同じ規制に含めています。
2.平成26年改正(監査等委員である取締役の報酬等)
 平成26年会社法改正により、監査等委員会設置会社という新たな機関設計が加わり、361条2項は、監査等委員会設置会社においては、監査等委員である取締役の報酬等とそれ以外の取締役の報酬等とは区別して定めなければならないとしています。
 また、361条3項は、「監査等委員である各取締役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬は、第1項の報酬等の範囲内において、監査等委員である取締役の協議によって定める。」と規定しており、監査役の報酬等に関する規定である387条2項と同様の規律となっています。
 さらに、監査等委員である取締役は、株主総会において、監査等委員である取締役の報酬等について意見を述べることができ(361条5項)、監査役の報酬等に関する規定である387条3項と同様の規律となっています。加えて、監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の報酬等について監査等委員会の意見を述べることもできます(361条6項)。
 以上のとおり、監査等委員である取締役は、監査役と同様に独立性確保の必要性から、その報酬等に関する規律は監査役と同様の規律となっていることがわかります(監査役の報酬の規律については後記7を参照)。
3.報酬等の決定内容及び決定方法
 株主総会で決議することが求められる事項としては、①金額が確定したものについてはその金額、②金額が確定していないものについてはその具体的な算出方法、③金銭でないものについてはその具体的な内容です(361条1項1号~3号)。
 そして、株主総会の決議において報酬を定める場合、取締役全員の報酬の総額を定め(最高限度額を定めるだけの場合もある)、その具体的な配分は取締役会の決定に委ねることも認められています(最判昭和60年3月26日判時1159号150頁)。また、取締役会は、具体的な配分を更に代表取締役に一任することができます(最判昭和31年10月5日裁判集民23号409頁)。
令和元年10月18日に、会社法の一部を改正する法律案(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00252.html)が国会に提出され、同年12月4日に参議院本会議にて賛成多数で可決、成立しました。施行日は、公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日とされており、令和3年6月までの施行が目指されています。
この改正では、金融商品取引法の適用会社である監査役設置会社(公開会社かつ大会社)、および監査役等委員会設置会社に対して、どのように取締役の報酬が決められるのか、その方針を定めることが求められています(改正会社法361条7項)。そして、この方針の詳細は、法務省令で定められるとされています。但し、取締役の個人別の報酬等の内容が定款または株主総会の決議により定められているときは、これは不要となります(改正会社法361条7項但書)。
 また、取締役の報酬が金銭以外のものである場合、その数や種類、上限などを株主総会で決定することが求められるとともに、取締役の報酬である株式及び新株予約権に関する特則が定められました(改正会社法361条3号~6号)。さらに、報酬を定めまたは報酬を改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において当該事項を相当とする理由を説明しなければならないとされています(改正会社法361条4項)。
 このように、会社法の改正により、今後更に、役員報酬の情報開示がなされ、株主総会等によりその妥当性の判断が可能となり、よって、役員報酬の透明性の向上が図られることになります。
4.取締役の退職金
 退職慰労金又は弔慰金は、それが在職中における職務執行の対価として支給されるものである限り、会社法361条1項の「報酬等」に該当します(最判昭和39年12月11日民集18巻10号2143頁、最判昭和48年11月26日判時722号94頁、最判昭和58年2月22日判時1076号140頁)。
5.取締役の賞与
 取締役の賞与は、従来日本では慣行として会社の利益分与として支払われ、改正前商法269条の「報酬」には該当しないと考えられていました。しかし、会社法のもとでは、職務執行の対価としての性質を有する限り、361条1項・309条1項の総会決議を要します。
6.使用人兼務取締役の取締役報酬部分
 判例は、使用人兼務取締役の報酬について「使用人として受ける給与の体系が明確に確立されている場合には、使用人兼務取締役について、別に使用人として給与を受けることを予定しつつ、取締役として受ける報酬額のみを株主総会で決議しても」よいとしています(前掲最判昭和60年3月26日)。
7.監査役の報酬
 会社法387条1項は「監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定める」と規定し、監査役の報酬についても、定款又は株主総会の決議で決定することを要求しています。監査役の報酬については、取締役の報酬とは別個の株主総会の決議が必要なのです。同条項は、取締役の職務の執行を監査するという監査役の権限に鑑み、地位の独立性確保のため取締役の恣意を防止する趣旨の規定です。また、複数の監査役がいる場合、総額が決定されているものの各自の受ける報酬額については決定されていない場合には、監査役の協議で定めることとされています(同条2項)。賞与、退職金についても、取締役について説明したことが妥当します。
 なお、賞与及び退職金についても、取締役分と監査役分とは明確に区別して決定されるべきです。

対応策

 役員の報酬・退職金及び賞与について代表取締役が勝手に決めることは許されません。しかし、株主総会の決議(会社法361条、387条1項、309条1項)によって総額又は上限が決定されていれば、その範囲内において取締役会から一任されて決定することは認められています。もっとも、公開会社かつ大会社等である場合、上記の今後の会社法改正により、どのように役員の報酬が決められるのかその方針を決定することが求められることになります。
 設問の場合、代表取締役は、取締役会に「一任」してもらった場合には、Bの役員報酬を減額することができますが、一任が取り付けられない限り、減額することはできません。

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