法律Q&A

分類:

育児休業

弁護士 難波知子

先日、昨今の不況にあえぐ企業が人件費削減のため育児休業中の社員を解雇したり非正社員化する「育休切り」が広がっているという新聞記事を読みましたが、法は育児休業等の申出又は取得を理由とする解雇等の扱いについて、どのような規定をしているのでしょうか。

法は、妊娠・出産・産前産後休業及び育児休業等(以下「育児休業等」といいます)の申出又は取得を理由とする解雇その他不利益な扱いを禁じています。

1育児休業に関する法の規定
 法は、「事業主は労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律10条、以下「育児介護休業法」といいます)と定めています。そして、ここでいう「不利益な取扱い」とは、解雇する、正社員を非正社員にする、自宅待機命令を出す、降格、減給・賞与等で不利益な算定をする等が典型例として挙げられていますが、ここで挙げられていない行為についても不利益な取扱いに該当するケースがあり得ます。このような法の規定がありますので、会社が、育児休業の取得を理由とした場合はもちろん、実質的な理由として解雇等を行った場合にも同条の「不利益な扱い」として、解雇は無効となります。そして、労働者はこの規定を直接の根拠として、育児休業の申出や育児休業をしたことを理由とする解雇等は無効であると裁判を起すことや、同法56条及び58条に基づき厚生労働大臣または都道府県労働局長による行政指導(助言、指導、勧告)を求めることもできます。
この点、労働基準法(以下「労基法」といいます)19条は、同法65条の産前産後の休業期間中及び産後8週間を経過した日(産後6週間を経過して労働者から就労請求あった日はその日)の後、30日間は解雇を制限していますが、同条には、育児休業が含まれていないので、育児休業取得者にはこのような内容の解雇制限はありません。また、育児介護休業法により禁止される解雇その他不利益な取扱いとは、労働者が育児休業の申出または取得したことと因果関係がある行為に限られ、育児休業の期間中に行われる解雇等が全て禁止されるわけではありません。
したがって、事実として深刻な経営悪化でリストラの必要性がある場合に、育児休業を理由とせず、他の社員と同様のいわゆる整理解雇四要素(①人員削減の必要性②解雇回避努力義務の実行③合理的な整理解雇基準の設定とその公正な適用④労使間での協議義務の実行の有無)等を踏まえた総合的判断で解雇せざる得ない場合であれば、育児休業中の者をあえて除外する必要はないので、解雇が許される場合があります。もっとも、その場合には、前記整理解雇四要素と呼ばれる要素を重要な要素として、総合判断し、労働契約法16条に照らしても解雇権濫用とならない場合でなければなりません。したがって、対象者の選定にあたり、育児休業取得自体について考慮要素とはせず、客観的で合理的な基準を設定し、それが公正に適用された結果、たまたま育児休業者が対象者として選ばれたのであれば、そのことのみで当該整理解雇が無効になるわけではありません。もっとも、前記の通り実質的に育児休業取得が決定的原因または重要な考慮要素となっている場合は、当該解雇は違法になりますので、注意が必要です。
2妊娠出産を理由とした解雇に関する法の規定
 上記の労基法19条の解雇制限に加え、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条3項は、事業主が妊娠・出産、産前・産後の休業をしたことを理由として解雇をすることを禁じています。しかし、現実には、「妊娠リストラ」「出産リストラ」が横行しています。会社はそれらが違法な行為であることを十分に認識すべきです。

対応策

 厚生労働省によると、育児休業等を理由とした不利益的扱いについての相談は、最近5年間増加傾向にあるとのことです。そして、同省も、その点を問題視し育児休業等を理由とした解雇その他不利益的取扱い事案に対し、法違反の疑いのある事項についての厳正な対応、法違反を未然に防止するための周知徹底等の通達を平成21年3月16日付けで都道府県の労働局長に出していますので(「妊娠・出産、産前産後休業及び育児休業等の取得等を理由とする解雇その他不利益取扱い事案への厳正な対応等について」(平21・3・16地発第0316001号、雇児発第0316004号参照)、今後は今まで以上に、育児休業等取得者に適切に対応する必要がでてきています。
 加えて、平成21年7月1日に「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律」(以下「改正育児休業法」といいます。)が公布されました。改正の概要は、①子育て期間中の働き方の見直し(育児期の短時間勤務制度の義務化、育児期の所定労働免除の制度化、子の看護休暇の拡充)、②父親も子育てができる働き方の実現(パパママ有給プラス、労使協定による配偶者除外規定の廃止)、③仕事と介護の両立支援、④法律の実行性確保(紛争解決の援助及び調停の仕組みの創設、事業主名の公表及び過料の創設)にあります。
 改正育児休業法は、平成22年6月30日(常時百人以下の労働者を雇用する中小企業については公布の日(平成21年7月1日)から3年以内の政令で定める日)から施行されることになりますが、育休切り等の急増から、上記④のうち、調停制度は平成22年4月1日より、紛争解決の援助、公表制度、過料の規定の創設については、平成21年9月30日と前倒しの上、施行されていますので、育休切りには今まで以上の相当な注意が必要となってきています。加えて、改正法に対応した育児休業法規程の変更が必要となります。
 今まで述べてきたとおり、育児休業を理由としての解雇は違法ですので、育児休業取得者が出た場合どのような対応をするのか予め想定し、具体的な対策を考えるとともに、育児休業を取得する側、される側が共に気持ちよく受け入れられるように、研修等で意識改革をしていくことも重要となるでしょう。

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