法律Q&A

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団交への対処

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2000年10月:掲載

労働組合ができて団交を求めてきたら?

A社では、最近B労働組合が結成されました。B組合は、不況の最中に20%の賃上げ要求を行い、団交についても社内での深夜に亘る大衆団交に固執し、A社が根拠となる資料を示し世間相場並の回答を示した上でB組合の要求を拒否すると、団交拒否だと騒ぎ立てます。A社はこれ以上団交を続ける必要があるでしょうか。

あわてず、恐れることなく、団交の当事者、交渉事項、日時・場所などをまず確認して、十分な準備をして団交に臨むべきです。

1.労働組合成立時の対応上のポイント
 設問のB組合のように、設立当初の組合はどうしても過激な行動に走りがちですが、経営者としても、労組法によって組合活動が保障されている現実を認識し、次のような対応を取る必要があります。【1】自分の会社も組合ができる位に大きくなったと自慢する位の落ち着きとゆとりを持ち、決して感情的になったりあわてたりしないこと。あわてて「労務ゴロ」と言われる悪質な専門家などを導入すると、組合側に上部団体等からの応援を招く口実を与え易いことも要注意です。基本的には、日本的な企業内組合の利点をフルに活かして社内の労使が腹を割って話し合うべきです。【2】公式・非公式な情報提供者=パイプを確保して労使のコミュニケーションの円滑化を図ることです。【3】労組法2条1号の管理職など非組合員の範囲を明確にすること。特に中小企業の組合では組合と対峙すべき総務部長が組合の執行委員長などという事態まで出現するので要注意です。【4】感情に走り不当労働行為などと批難されるスキを与えないこと。特に設立当初の組合は経営者の言動に過敏に反応するので要注意です。⑤次に触れる団交ルールを早目に確立すること。
2.団体交渉に当たっての注意点
 経営者の中には、一方で組合に対して、「冒険主義的」に高飛車に出る向きがあると思えば、他方では、逆に組合ができると「敗北主義的」に過剰に落ち込んで、経営の主体性を喪失し、組合の言われるままになってしまう向きもあります。しかし、いかに労組法などで保障されている労働組合活動と言っても、法に従った活動が求められるのであって、経営者は団交については次のようなルールに沿った行動を組合に対して求めて良いことを確認すべきでしょう。

【1】交渉当事者・担当者・交渉事項
 団交の開始に先立って、これらが明確になっていることが必要で、これらを「団交申込書」によって明らかにさせることです。これに関連して、組合員の人数、氏名については、団交の開始時に当たっては、従業員中のだれかが組合員であることが使用者に分かっていれば充分である場合は、組合員全員の名簿不提出を理由に団交を拒否することは許されませんが(新星タクシ-事件・東京地判昭和44.2・28労民20-1-213等)、団交事項との関連で名簿が必要とされる場合は拒否できる場合がでてきます(金星自動車事件・札幌地判昭和38・3・8労民14-2-404等)。

【2】交渉の日時・場所の設定
 これについても取り決めておくべきです。例えば、組合側が一方的に指定した日時・場所に会社が都合のつかない場合に合理的な理由をつけて期日の延期や変更を求めても団交拒否にはなりません(清本鉄工所事件・宮崎地労委昭和29・4・25命令集10-140)。しかし、これらの条件に固執して不当労働行為とされる場合もありますが(商大自動車事件・東京高判昭和62・9・8労判508-59等)、顧客への影響などを避けるための合理的な理由があれば団交の場所を事業場外で開催することに固執することも許されます(四條畷カントリークラブ事件・大阪地判昭和62・11・30労判508-28等)。又、団交の時間帯を会社の業務への影響を考慮して就業時間外に行うことを求めることも許されます。

(3)団体交渉の態様
 これについても、以下のような団交拒否の正当な理由があるときは、これを打ち切ることができます。

【1】多人数による大衆団交
 本来、労組法などが保障している団交とは、代表者を通しての統一的な取引ないしルール形成のための話合いのことで、団交では十分な交渉権限をもった統制ある交渉団(交渉担当者)の存在が条件となっているものなので、大衆団交は、そのような交渉体制が組合側に整っていないものとして、会社側はそのような体制(代表者団交)が整うまでの間交渉を拒否できるとされています(菅野和夫「労働法」第5版補正版511頁)。少なくとも、多数の労働者が押しかけ、罵声を上げるなど、長時間の交渉を強制し、会社側担当者の身体の自由を拘束するような吊し上げ的大衆団交は、拒否することも途中で打ち切ることもでき、会社側において組合側が暴力的行動をしないとの約束をしない限り交渉に応じないとの態度をとることも許されています(マイクロ精機事件・東京地判昭和58・12・22労判424-44)。

【2】組合の過大な要求への固執
 このような状況で、会社側が資料を呈示しその要求に応じられないことを説明したのに対しても、組合が何ら合理的な反対根拠を示すことなく団交を求める場合には、会社側として労働者側に妥結の誠意がないものとして団交を拒否することも許されます(順天堂病院事件・東京高判昭和43・10・30労民19-5-1360)。例えば、5回に亘って団交が応じたことをもって団交応諾義務は尽くされたとされることもあります(大日印刷事件・福岡地判昭和62・11・24労判507-40)。

【3】会社側からの引換条件の提示
 合理的なものであれば組合の要求に対して、そのような提案をすることも団交が取引である以上許されます。但し、反対提案が合理的でありその反対提案の内容について充分な説明をしていないと誠実な団交への応諾ではないとして団交拒否とされることがあるので要注意です(日本メール・オーダー事件・最三小判最判昭和59・5・29民集38-7-802、済生会中火病院事件・東京高判昭和61・3・27労民37-4=5-307等)。

対応策

以上を踏まえると、過大な要求と、不当な拘束を強いる深夜に亘る団交を、しかも、本来の団交とは言えない大衆団交方法によることなどに固執するB組合の要求に対してはA社としては応じる必要はないことになります。もっとも、団交を拒否してばかりいても紛争は解決しないので、団交に当るに際しての次のような一般的な注意点を指摘しておきます。【1】経営側の意思統一は充分か、【2】経営側の主張を裏付け組合側の要求に反対するための各種の基礎的な資料(同業他社との賃金相場比較等)は充分か、【3】組合側の動きについての各種パイプや組合の情宣ビラなどからの情報収集と分析は充分か、【4】団交経過を客観的な団交議事録などにして一般従業員や管理職にPRする体制を整え、これを実行しているか、などです。【5】必要に応じ団交における想定問答集のようなシナリオの作成が必要な場合があるのは株主総会対策と同様です。

予防策

大衆団交方式などが慣行だなどと言われないように、できる限り早期に、常識的な線で組合員の範囲に関する条項や団交・争議のルールに関する労働協約(いわゆる平和条項)を締結し、団交事項と労使協議会による協議事項の対象などをふるい分けて、労使の信頼関係の下に、労使各々の権利と利益の調整と企業全体の発展のための調和点を探る雰囲気とシステム作りが必要です。これができなくともそのようなルールを慣行化して行くような、毅然とした経営側の態度を堅持することが肝要です。

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