法律Q&A

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第12回 メンタルヘルスと解雇

中村 博(弁護士・ロア・ユナイテッド法律事務所)
1 休職期間満了時に関する裁判例
 多くの企業の就業規則では、私傷病休職の休職期間中に傷病が治癒すれば、復職となり、治癒しなければ自然(自動)退職又は解雇となる。したがって、復職不能の場合には失職となるため、その判断に関しては争いが起こりやすい。

 従前の下級審の裁判例では、従前の職務を通常の程度に行える程度の健康状態に復したか否かにより判断されるが(平仙レース事件・浦和地判昭和 40.12.16労民16-6-1113、アロマからー事件・東京地決昭和54.3.27労経速1010-25)、当初は軽易作業に就かせればほどなく通常業務に復帰できるという程度の回復であればそのような配慮の上の復職が義務付けられることもある(エール・フランス事件・東京地判昭和59.1.27判時206-147)とされていた。近時では、休業又は休職からの復職後、直ちに従前の業務に復帰できない場合でも、比較的短期間で復帰可能な場合には、短期間の復帰準備時間の提供などが信義則上求められ、このような信義則上の手続きをとらずに解雇することはできないとした例がある(全日空事件・大阪高判平 13.3.14労判809-61。事案では、3ヶ月以上の有給の復帰訓練の末の解雇の事案)。他方で、脳梗塞症の労働者につき、休職期間を経過したとしても就労不能が明らかな場合には、休職期間をおくことなく解雇することができるとした上で解雇を有効として例もある(岡田運送事件・東京地判平 14.4.24労判828-22)。

2 増悪防止のための軽減業務への配転等の不能な場合や軽減措置が長期化した場合の雇用の保障
 企業規模や当該従業員の能力・病状等の点などから増悪防止のための軽減業務への配転等の不能な場合や、増悪防止のための就労免除や軽減業務の長期化の場合には、労基法20条所定の予告等の手続を経た上でのいわゆる通常解雇の問題となるが(前傾・岡田運送事件参照)、一般には、容易には認められない。例えば、業務に起因する腰痛症のクレーン運転担当の労働者に対して「業務に堪えない」としてなされた解雇をめぐる事件においてではあるが、名古屋埠頭事件・名古屋地判平成2.4.27 は、結果的に解雇を認めたが、「業務とは、雇用契約で従業員の職種が限定されている場合でも、その業務のみならず、使用者が従業員に就労を命じ得ることが可能な業務を含むと解すべきで、従業員の疾病の内容、特質、罹患後の長さ、最終的に当初の限定された職種に復帰することが困難であることが高度の蓋然性をもって予測できるときは、その解雇が合理的で有効とされる」として、企業に対して、かなり高いハードルを課している。最近でも、脳卒中で倒れて右半身不随となり、入院治療を受けた私立高校の保健体育の教諭に対する「業務に堪えない」としてなされた解雇が、障害を有する教師の懸命な姿を生徒に示すことに教育的効果も期待できるなどとして無効とされたことがある(小樽双葉女子学園事件・札幌地裁小樽支判平成10・3・24労判738・ 26。しかし、同事件は控訴審で逆転し、業務に絶えられないとして、解雇が有効とされた。札幌高判平成11・7・9労判764-17)。又、私傷病での長期欠勤後に、身体虚弱、休日出勤拒否等を理由とした解雇が、業務に堪えられないとは言えないとして、無効とされた例があります(黒川乳業事件・大阪地判平成10.5.13労判740・25。判決では、原告の長期欠勤の原因がいずれも自己の健康管理では予防しきれない疾病で、罹患したこと自体はやむを得ないものであり、いずれも一過性のものであって現在は完治していると認め、風邪による病気欠勤日数も著しく多かったとはいえないとして、原告は身体虚弱で業務に耐えられないということはできないとし、休暇の取り方についても、一部において不自然さは免れないものの、原告が病気欠勤制度を濫用したとまでは断定できないとして、病気欠勤の連絡や提出された診断書を前提に、被告は業務の段取りをつけることが可能であったというべきであり、原告が病気欠勤に起因して被告の秩序を乱したYとまではいえないとした。又、被告は、原告が年次有給休暇の取得に際し、業務の都合や同僚への配慮を全く行わなかったことや、休日出勤の要請に対しても協力しなかったことも解雇事由として上げていましたが、判決では、年次有給休暇は労基法39条に規定された法律上の権利であり、たとえ原告の年次有給休暇の取得によって被告の業務に著しい支障を来したとしても、これを理由に解雇することはできないとし、休日出勤の協力要請についても、単に任意に協力を求めたものであって原告がこれに応じる義務はなく、たとえ業務に著しい支障を来したとしても、これを理由に解雇することはできないとしています)。

 さらに、人工透析理由の解雇が撤回され職場復帰の和解がなされたことも報じられている(東京高裁平成10・7・7の和解)。これらの判断に際する最低限の一の目安として、私傷病休職規定を置く企業では、私傷病休職制度があればそれにより、ない場合にも事故休職等の外の休職との均衡を考慮して、これらに応じた、期間の療養を認めた上で、解雇等の最終手段に踏みきるなどの対応が考えられる。いずれにせよ、企業の指定医による復職可能性の判断のための受診義務や、これらの健診に基づく配転や給与減額と解雇又は退職等に関する規定の整備が不可欠である。但し、前述の通り、休職期間を経過したとしても就労不能が明らかな場合には、休職期間をおくことなく解雇することができるとされることもある(前傾・岡田運送事件・東京地判平 14.4.24労判828-22)。

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