法律Q&A

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下請企業の労働者が起こした労災に対する元請企業の責任

弁護士 筒井 剛(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2003.06.17

問題

建設業を営んでいる当社は、自らが請け負った建設工場現場内で、下請企業 A社に建設作業をさせておりましたところ、A社の労働者であるBが作業中に負傷してしまいました。その後、Bは当社に対して労災を理由に損害賠償を請求してきましたが、このような場合において、当社は、Bに対する損害賠償責任を負うのでしょうか。

回答

 元請企業も責任を負う場合がある。
解説
1.元請企業は下請企業の労働者に対して責任を負う場合がある
 形式的に考えれば、下請企業の労働者は、元請企業の労働者ではない以上、不法行為責任が生じる場合を除いては、何らの責任も負わないはずです。

 しかしながら、そのような原則論のみではもはや対応出来なくなってきていると言わざるを得ないようです。即ち、裁判所は三菱重工神戸造船所事件(最判平 3.4.11民集162.295)において、下請企業の労働者が元請企業の作業場で労務の提供をするに当たり、元請企業の管理する設備、工具等を用い、事実上元請企業の指揮、監督を受けて稼働し、その作業内容も元請企業の労働者とほとんど同じであり、元請企業と下請労働者間の「実質的な使用関係」が認められる場合においては、元請企業の下請労働者に対する安全配慮義務・労災民事賠償責任を認めており、判例は広く元請企業に安全配慮義務を認める傾向にあるからです(他に鹿島建設・大石塗装事件(最判昭55.12.18民集34.7.888)等があります。もっとも、元請業者が紹介的な役割を果たしたに過ぎない場合は責任が否定されるべきでしょう。この点については東京エコン建鉄等事件・横浜地判平2.11.30判タ764.194が参考になります)。

2.元請企業に責任が認められる場合とは
 もっとも、元請企業に責任が認められるとは言っても常に責任が認められるわけではありません。この点、参考となる基準を示している判例が上記三菱重工神戸造船所事件判決です。同判決は、次のような具体的な基準を総合して元請企業と下請労働者間の「実質的な使用関係」あるいは「直接的または間接的指揮監督関係」が認められる場合には、元請企業の下請労働者に対する安全配慮義務を認め、労災民事賠償責任が認められるとしました。即ち、[1]下請労働者が元請企業の管理する設備・器具を使用していたこと、[2]下請け労働者が事実上、元請企業の指揮監督を受けて稼働していたこと、[3]本工労働者と作業内容が同一であったことの3点を指摘して元請企業と下請労働者との間に特別な社会的接触があることを理由に安全配慮義務を認めたのです。

 もっとも、上記関係の立証責任は損害賠償請求を請求する側である労働者側が負っていることに注意しなければなりません。つまり、労働者側で上記関係が立証できなければ、元請企業に対する安全配慮義務違反を理由とする労災民事賠償責任は訴訟上認められないこととなるのです。

 なお、造船・建設業のような安衛法 30条の特定元方事業者の場合は比較的緩やかに「実質的な使用関係」あるいは「直接的または間接的指揮監督関係」が認められるとも考えられますので、この点においても考慮にいれておく必要があります。

3.元請下請間の責任割合
 では、元請、下請間においては、どのような責任割合が認められるのでしょうか。

 一般的には元請、下請各業者の連帯責任を認め、その割合も、各業者同士の協議ができない限り、民法の原則により平等と見るべきとも考えられます(大判大 8.11.13参照)。

 しかし、判例においては、事故発生への関与の程度を実質的に考慮して責任割合を判断しているものもあり(大塚鉄工・武内運送事件・最判平3.10.23民集45.7.1173)、責任割合がどのようになるかは一概には評価できない状況にあるといえるでしょう。

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