法律Q&A

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映画撮影技師が映画撮影に従事している最中に脳梗塞を発症し死亡した場合、 その遺族は、労災保険法に基づいて遺族補償給付等の保険金請求をすることはできないのでしょうか?

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2003.06.19

問題

A社は、映画制作に際し、撮影技師としての甲に事務を依託してこれを進めていましたが、映画撮影中に甲が脳梗塞を発症して死亡しました。甲の遺族は、甲の死亡が当該映画制作に関わったことに起因して発生したものだと考え、労災保険請求を行おうとしてA社に協力を求めたところ、A社総務担当者が「当社は甲を雇用していたわけではないので労災保険請求はできません」と主張して協力しようとしません。甲の遺族としては、労災保険請求をあきらめなければならないのでしょうか?

回答

 判例の基準によれば、形式的には雇用契約ではなく委任あるいは請負契約であったとしても、A社と甲の関係が、諸般の事情から総合的実質的に判断して、使用従属関係の下に甲がA社に労務を提供していたとの関係があれば、甲は労基法9条の「労働者」に該当するので、労災保険法上も「労働者」に該当するとしております。従って、甲の遺族は労災保険請求をあきらめる必要はありません。
解説
1労災保険法上の「労働者」とは?
 労災保険法上の労働者については、明文上の概念規定がないことから、その範囲が問題となりますが、労災保険法の成立経緯や同報の支給事由が労基法上の業務上災害であること等から合理的に考え、労違法上の労働者概念(労基法9条)と同一であることに殆ど異論はありません。そして、労基法9条の「労働者」に該当するか否かは、雇用契約か委任又は請負契約かという形式的な判断ではなく、労務遂行過程における実質的ないし事実上の使用従属関係の有無によって判断すべきであるとされています。
2これまでの裁判例
 判例は、労災保険法における「労働者」概念に関し、このような一般論を認めた上で、[1]勤務時間の拘束・勤務場所の指定の有無[2]業務遂行過程における指揮命令の有無[3]専属関係に有無[4]代行性の有無[5]仕事の依頼・業務に対する許否の自由の有無[6]生産器具・道具等の所有如何[7]報酬が労務の対価たる性格を持つか等を総合考慮して使用従属関係の有無を判断しております(日田労基署長事件・最判平成元 .10.17・労判556-88)。判例上問題となり、その労働者性が否定された例として、「山仙頭として集材・造材作業に従事していた者」(前掲日田労基署長事件)、「車持ち込み運転手」(横浜南労基署長事件・最判平成8.11.28・労判714-14)、「海事会社の社長であった潜水夫」(長崎労基署長事件・長崎地判昭63.1.26・労判512-60)、「造園会社の取締役として造園業に従事していた者」(福島労基署長事件・福島地判昭 60.9.30・労判463-73)等がありますが、一方でこれを認めた判例としては、労基法上の判例ではありますが、「嘱託職員」(太平製紙事件・最判昭37.5.18・民集16-5)、「出来高の作業者」」(太栄金属工業所事件・大阪地判平2.2.7・労判561-65)等がありました。
3最新判例
 本件のような映画撮影技師について判例は存在しておりませんでしたが、最近、[1]映画制作は監督の指揮監督の下に行なわれる[2]報酬が労務提供期間を基準にして算定されている[3]仕事の許否の自由が制約されている[4]時間的場所的拘束性が高い[5]業務に代替性がない[6]撮影機材は殆どがプロダクションの所有物[7]プロダクションが技師の報酬を労災保険料の算定基礎としている等の事実を認定して、その労働者性を認める判例が出ました(新宿労基署長事件・東京高裁平成 14.7.11・労判832-13)。
4結論
 そこで、結論は回答の通りになりますが、甲の遺族とすれば、新宿労基署長事件でポイントとなった点につき十分に検討を加え、その労働者該当性をA社に主張しこれを納得させて、A社からの協力を得て、労災保険請求手続をとるべきでしょう。

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