法律Q&A

分類:

出張先の懇親会での災害

弁護士 木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2004.05

問題

【ケース1】出張先で、仕事が終わった後、ホテルで夕食と一緒にお酒を飲んだのですが、酔ってしまい、階段で転んで足を骨折してしまいました。労災保険金が給付されるでしょうか。
【ケース2】出張先の会社の懇親会に参加したのですが、酔ってしまい、帰り道に転んで骨折してしまった場合はどうでしょうか。

回答

 ケース1では、保険金が給付されるが、ケース2では給付されない可能性があります。
解説
1.「業務災害」
 労災保険の給付が認められるには、「業務災害」であることが必要になります(労災保険法12条の8)。そして、この「業務」性が認められるには、行政解釈上、災害につき「業務遂行性」と「業務起因性」の双方を有することが要求されています。

 このうち「業務遂行性」が認められるには、必ずしも具体的な業務の遂行中であることまでは要求されませんが、少なくとも、労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下または管理下にあることが必要とされています。

 では、事業主の支配下または管理下にある場合というのは、具体的にどのような場合なのでしょうか。これは、一般的には次の3つに類型化されています。

[1] 事業場内で作業に従事中に災害に遭った場合

[2] 事業場内での休憩中や、始業前・就業後の事業場内での行動の 際に災害に遭った場合

[3] 事業場外で労働しているときや出張中の災害

2.出張中の場合
 出張中の災害は、上記[3]にあたります。

 そして、出張中は、業務を行っている時間だけでなく、交通機関や宿泊場所での時間も含めて出張の全過程について、特別に積極的な私的行為または恣意的行為に及んでいたものでない限り、事業主の支配下にあるとして業務遂行性が認められます。

 この点、大分労基署長(大分放送)事件判決(福岡高裁平成5年4月28日労判648号82頁)は、同僚と宿泊を伴う業務出張の際に、宿泊施設内で夕食時に飲酒し、酔って階段で転倒し、頭を強く打って死亡したという事例において、「同僚と宿泊先の客室のような場所で寝食をともにするというような場合に、本件程度の飲酒は通常随伴する行為といえなくはないもので、『本件出張のような宿泊を伴う業務出張の際には、夕食時にともに飲酒をすることを常としていた』旨の供述も合わせ考えると、積極的な私的行為ないし恣意的行為に及んでいたものではない」旨述べて、業務遂行性を認めています。

 この裁判例からすれば、ケース1でも、お酒を飲んだことが積極的な私的行為または恣意的行為とはいえず、業務遂行性が認められるでしょう。

3.私的な懇親会の場合
 では、ケース2の場合はどうでしょうか。

 この点、立川労基署長(東芝エンジニアリング)事件判決(東京地裁平成11年8月9日労判767号22頁)は、出張先の従業員が企画した任意の送別会に参加して飲酒し、宿舎に帰った後行方不明となり、4日後に近くの川で溺死体となって発見されたという事例において、「本件会合は、一緒に仕事をした他者従業員の送別会であり、有志の企画、回覧を回して参加者を募るという方式、勤務終了後に会費制、幹事による開会の挨拶、閉会の挨拶はなく流れ解散ということからすれば、本件会合への参加は私的行為であり、事業主の支配下にはない」旨述べて、業務遂行性を否定しました。

 ケース2でも、上記事例と同様に、業務終了後に、任意で開かれたものであれば、積極的な私的行為として業務遂行性は認めらない可能性があります(会社が主催して、従業員全員出席が前提となっているような場合には、業務性が高く、業務遂行性が認められるでしょう)。

4.異なる結論に至ったポイント
 仕事が終わった後にホテルの部屋で一杯やるというのは、出張時に通常あることですが、出張先の会社の任意の懇親会に参加することは通常出張に伴って行うこととまではいえません。このように、一般的にみて、通常出張時になされる行為かどうかにより、結論が異なったものと考えられます。

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