法律Q&A

分類:

年休中の社員を呼び出した場合と労災

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2004.04

問題

仕事の都合で年休取得中の社員を急きょ呼び出すことがあります。[1]多くは出先から会社に向かうことになりますが、その際に交通事故に遭った場合、何らかの労災保険は適用されますか。[2]いったん自宅に立ち寄ってから会社に向かった場合はどうなるでしょう。これらの場合に労災保険が適用されるとしたらそれは通勤災害となるのですか?

回答

 原則として、[1][2]いずれの場合も、業務上災害として処理されるものと解されます。
解説
1.通勤災害の意義
 通勤災害とは、労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡のことをいいます(労災保険法7条1項2号)。通勤災害と認められた場合には、労災保険による保険給付の対象となることが定められていますが(療養給付・休業給付等)、業務上の災害ではありませんので、たとえばこれにかかる療養期間は、労基法19 条において、解雇禁止対象には含まれません。
2.通勤災害の認定要件
 通勤災害と認定されるためには、まず、災害を被ったのが「通勤」の途上でなければなりません。そこで労災保険法にいう「通勤」と認められるためには、「就業に関し」、「住居と就業の場所との間を」、「合理的な経路および方法により往復」していたことが認定されなければなりません。また、原則として中断や逸脱があってはならず、業務の性質を有するものも除かれます(労災保険法7条2項)。
3.一般的な年休取得中の災害
 以上の要件に照らせば、年休取得中の災害は、一般的には、就業との関連性がなく、通勤災害には当たりません。例えば、被災労働者が、当日、年休を取り休んでいたが、たまたま当日が給料支払日であったので、車で会社へ赴き、受領して帰宅中、交通事故で負傷した場合、単に給料受領のみの目的をもって会社へ赴いたもので、通勤と業務との密接な関係を欠くものですから通勤災害とは認められません。
4.年休中に上司の指示で出勤することになった場合は
 上の3の場合と異なり、設問の場合、業務上の必要から、年休取得中の社員が上司の指示に従い、急きょ会社に呼び出された訳ですので、結局、年休が取り消され、労働日として就労することになる訳ですから、一見すると、[1]の出先からの場合には、「住居と就業の場所との間を」との要件に該当し、[2]の場合は、「合理的な経路および方法により往復」にて会社に向かっている際の交通事故である限り、通勤災害で処理されても不思議はないように思われます。

 しかし、通達は、設問のような場合の処理につき、通勤災害制度が導入された昭和48年以前から、あたかも出張中の災害と同様に(自宅から出張先に出向く途中の列車事故が業務上災害とされた昭和34.7.15基収 2980号)、通勤災害ではなく、業務上の災害に当たるとしています(昭和24.1.19基収 3375号)。同通達は、休日に、鉄道の保線工夫が、自己の担当する鉄道沿線に突然事故があったため、自宅等から使用者の呼出を受けて現場にかけつける途上は、業務遂行中である、としています。

 このことは通勤災害制度が導入された際の通達においても、「従来からの取り扱いどおり、... 突発的事故等による緊急用務のため、休日又は休暇中に呼出を受け予定外に緊急出勤する場合が」、上記の通勤災害に該当しない場合の「業務の性質を有するもの」(労災保険法7条2項)に当たるとして、確認されています(昭和48.11.22基発644号)。

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