法律Q&A

分類:

派遣社員に対する安全配慮

社会保険労務士 深津 伸子(ロア・ユナイテッド社労士事務所)
2006.02

問題

当社では、受注の増加に伴って、派遣会社から派遣労働者を受け入れようと考えていますが、もし派遣労働者が労働災害にあった場合労災保険の適用はどうなるのでしょうか?また、派遣労働者の安全や健康について注意すべき点はあるでしょうか?

回答

 派遣労働者の労災保険関係は、派遣元事業主について成立していますので、派遣労働者が業務上や通勤途上の災害で病気やけがを負った場合、派遣元での労災保険が適用され保険給付が行われます。しかし、派遣就労が派遣先の事業場において派遣先の指揮命令下になされることから、派遣先も職場における労働者の安全衛生を確保する責任を負い、安全配慮義務を怠った場合は、その責任を問われることもあるでしょう。
解説
1 労働者派遣とは
 労働者派遣法2条1項は、「労働者派遣」を、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする」と定義しています。
2労働者保護法規の適用関係
 労働基準法等の労働者保護法規の労働者派遣事業に対する適用については、原則として派遣中の労働者と労働契約関係にある派遣元が責任を負います。労働基準法に規定する災害補償についても、労働者派遣法44条により、原則通り派遣社員と雇用関係にある派遣元会社が負うこととされています。このため、労災保険についても、派遣元での適用となり、派遣元の労災保険に基づいて保険給付を受けることとなります。しかし、派遣先は業務遂行上の具体的指揮命令を行うことから、派遣先についても派遣労働者の安全衛生を確保する特例的な責任を定めています(労働者派遣法45条)。
3派遣先の安全配慮義務が問われた例
 派遣労働者に対する安全配慮義務違反が問われた裁判例としてアテスト(ニコン熊谷製作所)事件(東京地判平17.3.31労判894-21)があります。これは、ニコンの熊谷工場に派遣された男性がうつ病を発症して自殺したのは、長時間勤務と劣悪な勤務環境が原因として、遺族が派遣会社ニコンと業務請負会社ネクスター(現アテスト)に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は両社に計約2480万円の支払いを命じました。判決は、人材派遣、業務請負など契約形態の違いは別としても両社は疲労や心理的負担が蓄積しすぎないよう注意すべきだったとして、両社の安全配慮義務違反を認めています。

 派遣労働者は雇用責任が分散しがちで権利保護が難しいと指摘されていますが、この事案は、実質的な派遣労働者の過労自殺を認め、派遣先、派遣元双方に賠償を命じた珍しいケースです。なお、本件は現在控訴中であり、今後の動向が注目されます。

4質問への回答
 以上によると、労災保険については、派遣元での適用となり、派遣労働者が業務上や通勤途上の災害で病気やけがを負った場合は、派遣元の労災保険に基づいて保険給付を受けることとなります。しかし、安全配慮義務違反等に基づく損害賠償を求められた場合、派遣先の責任が認められることがあり得ます。近年、安全配慮義務は広く認められる傾向にあり、派遣先は派遣労働者に対しても安全配慮義務を怠らないよう注意すべきです。

身近にあるさまざまな問題を法令と判例・裁判例に基づいてをQ&A形式でわかりやすく配信!

キーワードで探す
クイック検索
カテゴリーで探す
新規ご相談予約専用ダイヤル
0120-68-3118
ご相談予約 オンラインご相談予約 メルマガ登録はこちら