法律Q&A

分類:

休業補償給付の支給基準

弁護士 石居 茜(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2006.10

問題

私は、業務中の事故により労災認定を受け、休職したため、労災保険法上の休業補償給付を受けていましたが、生活も苦しいので、リハビリを兼ねて自営でオートバイ店を開業したところ、支給を打ち切られてしまいました。私としては、来客も少なく、調子の悪いときは横になったりしていて、一般的な仕事より作業量がかなり少ないので、労働可能な状態になったとはいえず、休業補償給付を受けられると思うのですが、どのように判断されるのでしょうか。

回答

 一般的な労働者の1日の労働時間と同等あるいはそれを超える時間に亘って、一定の場所に拘束され、一定の緊張や慎重さ、知識、経験を求められることを行い、それが自分や家族の生活を支えることに直結しているような場合には、労働が可能な状態であったとして、休業補償給付が受けられないでしょう。
解説
1 労災保険法上の休業補償給付(労災保険法第14条)
 労災保険法上の休業補償給付は、「労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けない」ときに支給されます(労災保険法第14条1項)。

 従って、労働者が休職するなどして賃金が支払われなくても、医師の診断などにより、就労可能と判断されれば、休業補償給付は打ち切られます。

 労働保険審査会の裁決で、慢性肝炎と診断され療養のため労働することができなかったとして休業補償給付を請求した労働者に対し、労働基準監督署長が通院日以外は支給しない旨の処分をしたことについて、複数の医師の見解から当該労働者が就労可能であったとして処分が正当であるとしたものがあります(労働保険審査会・平7.1.10裁決・労判690号101頁)。

 また、タクシー運転手が業務中に左目を負傷し療養中、休業補償給付を請求した事案でも、同種の手術に一般的に必要な経過観察期間として1週間程度とその後の関連性ある通院日のみ休業補償給付を認めています(労働保険審査会・平成4.5.28裁決・労判628号86頁)。

2 設問への回答
 設問の事案では、裁判所は、本件オートバイの販売店の来客は、1日に多くても5,6人であり、少ないときは0人で、販売や修理・点検の数も少なく、当該労働者が現実の作業をしていない時間が長かったことが認められ、仕事の質や量の面からいえば、平均的、一般的な仕事よりは軽度のものであったと認めながらも、当該労働者が、原則として毎日、一般的な労働者の1日の労働時間と同等あるいはそれを超える時間に亘って、一定の場所に拘束され、一定の緊張や慎重さ、知識、経験を求められることを行い、それが自分や家族の生活を支えることに直結していたこと、店番をしている限り、来客があればすぐに対応しなければならないので、客が来ていない時間であっても自宅で休んでいる場合とは同様とは考えられないこと、店を開けている以上商品の管理をする必要もあることなどから、労働者の仕事の量や質が軽いものであったとしても、一般的な労働に該当しないとはいえないとし、労働基準監督署長の判断に違法はないとしています(東京地裁平18.2.23判決・労判914号38頁)。

 地裁の判決ではありますが、就労可能かどうかの判断基準を丁寧に分析していますので参考になると思われます。従って、軽作業でも、一定の拘束時間を伴う作業に従事していた場合には、医師の判断と相俟って、就労不能とはいえないと判断される可能性が高いといえるでしょう。

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