法律Q&A

分類:

パート労働者の賃金格差

弁護士 村林 俊行(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007.03

問題

甲は、A社において正社員と同様にほとんどフルタイムで基幹的業務に従事していましたが、賃金については正社員に比して6割程度しか支給されていませんでした。このような場合、甲のA社に対する正社員との差額賃金相当額の請求は認められるでしょうか。

回答

 甲のA社に対する正社員との差額賃金相当額の請求が認められる可能性はある。
解説
1 均等待遇の理念の具体化
 労働契約においては、どのような賃金を定めるかは基本的には契約の自由の原則が支配するので自由に定められます(日本郵便逓送(臨時社員・損害賠償)事件 大阪地判平14・5・22 労判830号22頁)。しかし、パートタイム労働者と通常の労働者との間においては、労働時間、労働日数が短いことや就業実態の差異等から生ずる合理的な範囲を超えた格差を設けることは許されません。

 この点に関連して、平成5年に成立した「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下、パートタイム労働法という)においては、事業主はパートタイム労働者について「通常の労働者との均衡等を考慮して」適正な労働条件の確保等を図るための措置を講ずるものとされ(同法3条)、パートタイム労働指針においてその具体化がなされていますが、昨年末における労働政策審議会分科会においては、正社員と「正社員並みパート」との著しく不合理な待遇格差を禁ずる法改正のための最終報告をまとめています。今後はこの最終報告を受けてパートタイム労働法に「均衡処遇」の考え方の基準が明記されることが予定されています。

2 判例による基準
 本件と類似する事例について、丸子警報器事件判決(長野地裁上田支判平8・3・ 15 労判690号32頁)は、製造ラインにおいてほとんどフルタイムで基幹的業務に従事していたパートタイム労働者らの賃金については、同じ勤務年数の女性正社員の8割以下となる場合に使用者の裁量が公序良俗違反になるとして、その差額分につき違法な賃金差別を認めています。但し、一般的にも、外見的に同一の労働のようでも、基幹的正社員とパ―トタイム労働者などとの間には、採用手続、人材育成、残業や異動などでの義務の存否・程度、期待される勤続年数等において厳然たる差があり、その差異の限界を安易に2割程度と評価できるのか等については疑問が提起されていました(菅野和夫「労働法」第7版修正版 178頁以下参照)。

 そのため、上級審での判断が注目されていたところ、平成11年11月29日東京高裁にて、次のような和解が成立し、今後、同種事案解決の一つの指針を示すものとして注目されています。即ち、[1]給与を日給制から月給制にする[2]今後5年間に毎月5000円ずつの月給増額で格差を是正する[3]一時金の支給月数を正社員と同じにする[4]和解成立後の勤続に対する退職金の計算方法を正社員と同一にし、和解成立時までの勤続に対する退職金は従前の2.5倍に改める等です。これにより、賃金体系の是正により5年後には原告らの賃金は正社員の90%前後にまで改善されることになったとのことです(平成11年11月30 日日経新聞記事参照)。

3 本設問について
 本設問においては、甲はA社において常勤パートとして正社員と同様にほとんどフルタイムで基幹的業務に従事していたとのことですので、Aは「正社員並みパート」といえるので、正社員との著しく不合理な待遇格差は公序良俗違反となる可能性があります。この点、本設問では、Aの賃金については正社員に比して6割程度しか支給されていなかったとのことであり、公序良俗違反の重要な判断要素になるものと思われます。しかし、判例上は、前記丸子警報器事件判決のように賃金格差を公序良俗違反とするものもありますが、同一労働同一賃金の原則の基礎にある均等待遇の理念を十分に考慮せずに賃金差額請求を棄却する判決もあることから(前記日本郵便逓送(臨時社員・損害賠償)事件判決)、本設問においても正社員との差額賃金相当額の請求が認められる可能性があるといえるにとどまります。

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