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悪質なセクハラには"解雇は当然"で臨め

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2001.08.28

 セクハラ問題に関しては、既にマスコミで耳に蛸の感も否めないだろうが、弁護士業務を通じての実感としては、人事担当の現場では、最近とみに実務的にも相当深刻な問題になっている。

  一つの理由は、セクハラへの損害賠償額につき、平成11年後半に至り、700~1100万円台まで認める判例の相次ぐ出現にあるが、企業はそれ以上に社会的イメージダウン等の風評被害、企業内のモラールの低下等の甚大な無形の損害発生を恐れているようだ。

 このような中での企業からのセクハラに関する弁護士への依頼も、防止研修、規程整備への協力から、実際に発生した案件についての苦情処理・仲裁的
役割に留まらず、当事者双方と企業三者の間の示談交渉・訴訟などへの関与までに及んでいる。その中で最近、企業が深刻に頭を悩ませているのが、セクハラ加
害者に対する、再発防止のための異動、懲戒処分、最終的な解雇・懲戒解雇等による対応の仕方だ。

  既に訴訟等に至らない実際の処分例として新聞報道されたケースでも、懲戒解雇・免職から、勧奨退職、事実上の諭旨解雇、停職、減給、文書戒告まで、様々な処分事例が散見されるが、問題は次の2点だ。

 即ち、典型的な懲戒処分を例に取ると、処分を行うに当たっては、一方で、a.セクハラの程度に応じ、他の懲戒事由との均衡を図りながら慎重かつ公
正に行わなければならないという一般的要請があり(ダイハツ工業事件・最二小判昭58.9.16等)、その処分の有効性が争われる危険があり、他方で、
b.温情的な処分の結果、問題が再発した場合は、適切な処置を怠ったとして企業が強く責任を問われることにもなりかねないからだ。

 このことは、既に、企業内でセクハラが生じた場合の、行為者への制裁等の雇用管理上の措置を講ずるに当たっての留意事項等につき厚生労働省平成
13年2月
26日付「職場におけるセクシュアルハラスメントの実効ある防止対策の徹底について」との通達でも指摘されているが、最近になり、セクハラ加害者への解雇
等の制裁措置の有効性をめぐる判例が相次いで現れており、実務的指針として紹介しておく。

 先ず、間接的ではあるが、b.の企業のセクハラ防止義務との関係が問題になった判例として、福岡セクシュアル・ハラスメント事件(福岡地判平
4.4.16)がある。ここでは、いわゆる性的風評を流したこと等のいわゆる環境型セクハラが問題とされたが、企業が加害者に3日間の自宅謹慎(賞与から
5万円の減俸もあった)を命じたに止まったことが職場環境調整義務違反の一要素されている。

 その後、a.のセクハラ加害者への懲戒解雇等の措置の有効性の存否が真正面から争われた判例が現れてきた。先ず、肉体的接触を伴う悪質な事案で懲
戒解雇が有効とされた例として、観光バス運転手が未成年のバスガイドに対してわいせつ行為に関する西日本鉄道事件(福岡地判平9.11.5)や、派遣社員
の下着に触れるなどの肉体的接触を伴う強制わいせつ的行為に関するコンピューター・メンテナンス・サービス事件(東京地判平10.12.7)、観光バス会
社の運転手の取引先女性添乗員などの胸等に触れたりホテルに誘うなどの行為に関する大阪観光バス事件(大阪地判平12.4.28)がある。次に、高校教員
の洋上研修中の女性教員への肉体的接触や性的な言動等を理由とする戒告処分及び免職処分が有効とされた新宿山吹高校事件(東京地判平12.5.31)、更
に、自身がセクハラを理由に部下を退職勧奨したことがある管理職による部下の女性に対する性的な内容のEメールやデートへの誘い等の性的言動を理由とする
普通解雇が有効とされたF製薬事件(東京地判平12.8.29)がある。

 以上の判例の事案は認定された事実からは当然解雇相当とされるもので、そのような場合でさえ解雇の効力を争そってくる場合があることに注目せねば
ならないだろう。もっとも、今後も、勿論事案の程度・内容によるが、裁判所がセクハラ理由の解雇において、加害者に厳しい態度を取ることは、セクハラ損害
賠償事件での判例が企業にセクハラ加害者への厳しい処断を求めていることとの社会通念上のバランス、論理的整合性からも容易に予想されるところだろう。

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