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出勤停止は自宅謹慎まで義務付けることができるか?

弁護士 木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2022年2月補正

先日、当社の社員が無断で会社の商品を持ち出したため、懲戒規定により1週間の出勤停止処分にしました(無給)。その期間中は当然自宅謹慎するものと思っていましたが、知り合いのところへアルバイトに行っている事実が判明しました。出勤停止ということは単なる出社禁止ではなく、自宅で謹慎することと理解していますが、今後出勤停止の場合、自宅謹慎を命じることはできないでしょうか。

懲戒処分としての出勤停止処分の内容として、自宅謹慎まで含めた処分を命じることはできないと解されます。

1.出勤停止の意味・種類
 出勤停止とは、労働契約を継続しつつ労働者の就労を一定期間禁止することをいい、通常は、次のとおり、懲戒処分としてのものと業務命令としてのものがあります。

(1)懲戒処分としての出勤停止
 懲戒処分としての出勤停止は、服務規律違反に対する制裁として命じられるものであり、最長10日ないし15日間の期間のものが多いといえます。
 懲戒処分として命じられるものである以上、周知された就業規則に規定があることが必要であると解されています(フジ興産事件・最二小判平15・10・10労判861号5頁)。この場合、出勤停止期間中は、無給とされ、勤続年数にも算入されないのが通常です。
 ご質問のケースは、こちらの出勤停止に当たります。

(2)業務命令としての出勤停止
 これに対して、業務命令としての出勤停止には、[1]懲戒処分を科すべきか否か、及び、科すべき懲戒処分の内容を決定する前提として、事実関係の調査や処分内容の決定をするまでの間に命じられるもののほか、[2]従業員を出社させるのが不適当であると会社が判断した場合(たとえば、メンタルヘルス疾患等での自傷・他傷等の危険回避のため自宅で療養する必要がある場合や、ハラスメントの被害申出に対して、緊急に加害者を被害者から隔離する必要がある場合などが考えられます)に命じられるものがあり、いずれも業務命令として命じられるものです。
 業務命令として命じられるものですので、就業規則に規定があることは必要ありません。恣意的な理由や異常かつ不必要な長期間にわたり人事権の濫用とされる場合を除き、合理的かつ相当な理由がある限り、出勤停止を命じることができます。
 ただし、懲戒処分ではないので、有給であることが原則となります。事故発生、不正行為の再発、証拠隠滅のおそれなど、従業員の就労を拒否する実質的な理由が存在しない限り、賃金支払義務を免れることはできません(京阪神急行電鉄事件・大阪地判昭37・4・20労民13巻2号487頁、日通名古屋製鉄作業事件・名古屋地判平3・7・22労判608号59頁など)。近時の裁判例でも、出張旅費、会議打合費、交際費の不正受給に対する懲戒処分の審査中、出勤停止を命じた事案において、不正受給に係るゴルフの相手方や、不正受給に当たって飲食等の相手方と偽って申請された者は社外の者であり、懲戒対象者が出勤したとしても、口裏合わせ等の証拠隠滅等のおそれが高まるとは考え難いとして、賃金全額の支払いを命じたものがあります(JTB事件・東京地判令3・4・13労経速2457号14頁)。

2.自宅謹慎(待機)を命じることの可否
 以上の説明は、「出勤停止」、つまり会社における「就労を禁止」する処分についてのものですが、さらに「自宅謹慎(待機)」、つまり「外出を禁止」することまで命じることができるのでしょうか。

(1)懲戒処分としての出勤停止の場合
 懲戒処分として出勤停止を命じる場合に、さらに自宅謹慎も命じることは、基本的人権である「人身の自由」(憲法18条)を奪うことになる以上、いくら懲戒処分といえども、認められないと考えられます。
 したがって、懲戒処分として出勤停止を命じる場合に、さらに自宅謹慎も命じることはできないと解されます。
 ご質問のケースでは、出勤停止中に知り合いのところへアルバイトに行っている事実が判明したとのことですが、この点については、兼職禁止等の就業規則違反があれば、別途、それについての懲戒処分を行うことで対処すべきでしょう。

(2)業務命令としての出勤停止の場合
 これに対して、業務命令として有給で出勤停止を命じる場合には、さらに勤務時間内の自宅謹慎ないし待機を命じることは、合理的かつ相当な理由が存在する限り、認められる場合があるものと解されます。
 当該命令を有効とした裁判例としては、取引先と直接接触するセールスマンが、仕事上関わりがあったデモンストレーターの女性と不倫関係に陥ったことが原因で、会社の信用が失墜した場合につき、そのままセールス活動を続けさせることは業務上適当でない等の理由から行われた約2年間にわたる自宅待機命令には相当な理由があるとした、ネッスル(静岡出張所)事件・東京高判平2・11・28労民41巻6号980頁(原審は静岡地判平2・3・23労判567号47頁)があります。この裁判例は、自宅謹慎(待機)について、「被告は、本件自宅待機命令の発令期間中も、原告に対して給料及びボーナス等を支払って」おり、「勤務時間内における自宅待機を命ずるだけで、それ以上に原告に対して過酷な制約を課するものではないことなどを考慮すれば…業務命令として許される」、「控訴人は、…本件自宅待機命令は…自宅に軟禁状態にされたことになる控訴人に大きな精神的苦痛を与えるものであるとも主張する。たしかに、右命令が控訴人にある種の精神的苦痛を与える面のあることは否定できないが、それは、右命令を行わなければならなかった前記のような業務上の必要の程度を勘案すると、未だ右命令を違法とするだけの事情とまで解することはできない」と述べています。
 また、星電社事件・神戸地判平3・3・14労判584号61頁は、降格処分を確定するための調査・審議のため(1か月間)及び飲酒による肝機能障害の療養・禁酒のため(その後の3か月間)の自宅待機命令(その間、勤務時間内は許可なく外出してはならないと使用者から告げられていた)について、「原則として賃金の支払い義務を免れないものの就業場所における就業を禁止するもので、就業規則その他に根拠を有する不利益処分ではない、単にいわゆる自宅勤務を命じたものに該当する」が、相当の理由があるので人事権の濫用には当たらないとしました。
 さらに、F社事件・神戸地判平30・7・20労経速2359号16頁では、「本件自宅勤務命令は、勤務場所である関西支社への出勤を禁じ、自宅において用地仕入情報収集業務を行うよう命じるというものであるが、一方で、給与はそれまでと同じ金額を支給することとされていたので、労働条件の面からみるかぎり、原告に特に不利益を与えるものとはいえ」ないところ、原告の非違行為について十分な調査をしたうえで何らかの処分をする事態も想定されていたこと、原告を出勤させつつ調査を行うことは困難な事情があったこと、再発防止策をとる必要もあったことからすれば、「本件自宅勤務命令に業務命令権の濫用はなく、有効である」とされています。

3.結論
 以上から、有給であることを前提とした業務命令としての出勤停止であれば、勤務時間内における自宅謹慎ないし待機を命じることができる場合があるでしょうが、無給であることを前提とした懲戒処分としての出勤停止である場合、自宅謹慎を命じることはできないと解されます。  

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