法律Q&A

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就業規則、労働協約と異なる労働契約の効力は。

弁護士 筒井 剛(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2003.09.02

契約社員等の臨時社員と労働契約を締結する場合、就業規則や労働協約と異なる労働条件・処遇内容で個別に行ってもよいでしょうか。契約内容が就業規則等を上回っていれば問題ないと思いますが、下回る 場合はどうでしょうか?

就業規則を下回る条項は無効であるが、上回る条項は有効。協約と異なる条項は原則無効。パート等については、合理的範囲内であれば有効。

1. 就業規則と異なる労働契約の効力
(1)就業規則を上回る条項は有効
 就業規則にない条項を含む労働契約を締結した場合の当該条項の効力については、労基法93条は、「就業規則に定める基準に達しない労働条件」の部分が無効となると規定しています。同条は、後に述べる労組法16条と異なり、「達しない」労働条件の部分を無効にするという規定の仕方をしており、あくまで就業規則の規定を下回る労働契約の定めのみを問題としています。

 したがって、就業規則は片面的強行性しか有さず、労働契約がそれを上回る労働条件を定めた場合、その労働条件は有効であると解されております。

 このことは、労基法が2条2項で労使の就業規則遵守義務を規定しつつ、1条2項で労働条件向上へ向けての労使の努力義務を規定していることからも根拠付けることができます。労基法は、最低基準を就業規則で定めて上でそれを上回る労働条件を作り出すよう労使で努力すべきであるという要請ないしは基本的態度を示しているいえるからです。

 なお、判例も、中川煉瓦事件(大津地判昭25.10.13労民集1巻5号875頁)において、同様の解釈を採っております。

 このように、就業規則を上回る条項を含む労働契約を個別に締結することは可能といえます。

(2)就業規則を下回る条項は無効
 これとは反対に、就業規則を下回る労働条件を規定しても、その条項は無効であり、そのような労働協約を締結することはできません。このことは、労基法93条前段が、「就業規則に定める基準に達しない労働条件を定める労契約は、その部分については無効とする。」と規定していることからも明らかです。

 ただ、その場合においても労働契約全体が無効となるのではなく、その条項のみが無効となることに注意する必要があります。この場合、無効となった部分については、就業規則で定める基準によることとなります(労基法93条後段)。

2.協約と異なる労働契約の効力
(1)協約と異なる労働契約締結の可否

 労組法16条は、「労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする」としています。本条は労基法93条と異なり、「違反」という言葉が用いられているために、違反というのは協約を下回る定めをすること(片面的強行性)のみを意味するのか、それとも有利不利を問わず協約と異なること(両面的強行性)を意味するのかが問題となっております。

 この点、労組法は白紙の立場をとっておりますが、労働組合が交渉し協約化するのは、通常は、当該企業・事業所における組合員の現実の労働条件であり、最低基準ではないと解すべきでしょう。

 もっとも、最低賃金の定めのように最低基準の設定もありえますので、この点は確認する必要があります。

 したがって、原則として、労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準については、労働協約を下回ることはもちろん、上回る労働契約を締結することもできません。

(2)協約と異なる労働契約の効力
 仮に、労働協約と異なる条項を含んだ労働契約を締結した場合には、労働契約自体としては有効ですが、その条項については労働協約に定める基準の限度でのみ効果が認められることにすぎないこととなります(労組法16条)。

3.契約社員・パート社員等との個別契約について
 アルバイトやパートタイマー、あるいは契約社員などの各種の非正規従業員(以下、これらを一括してパート等と言います)が、仮に正規従業員と同じ様な業務につく場合には、どうでしょうか。

 この場合、就業規則に適用除外規定や別規則への委任規定に基づく別規則を設けることによって、正規従業員に適用のある就業規則、労働協約と異なる労働条件の契約を締結することも可能です。

 もっとも、通称パート労働法第3条(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)において、事業主は、パート等について「通常の労働者と均等等を考慮して」適正な労働条件の確保等を図るための措置を講ずるものとされていることからも明らかなように、正規従業員との間で、不合理な労働条件の差、すなわち労働時間・労働日が短いことや就業実態の違いから生じる合理的範囲を超えた格差を設けることは許されません。

 この点、正規従業員とパート等(臨時社員)の賃金差別につき、丸子警報器事件判決(長野地判上田支部平成8.3.15労判690-32)は、臨時社員の賃金が同じ勤続年数の正社員の8割以下となるときは、使用者に許された裁量を逸脱して公序良俗(民法90条)違反になると判示しており、特に賃金については注意が必要です。

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