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派遣労働者に派遣先の36協定を適用してもよいか

弁護士 福井 大地(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2022年7月

当社は、派遣先として派遣労働者を受け入れる際に、時間外労働が多いことは派遣会社にも本人にも伝えていたのですが、その上限時間については特に定めていませんでした。この場合、当社の36協定に基づき、時間外労働を命じてもよいのでしょうか。

派遣先の36協定に基づき、時間外労働を命じることはできません。

(1)派遣労働者への労働基準法の適用
 派遣労働者と労働契約関係にあるのは派遣元であるため、労働基準法の適用については、派遣元が責任を負うのが原則です。もっとも、派遣法は、派遣先事業主が責任を負う場合について、特例として規定を設けています(派遣法44条)。以下、その特例について述べていきます。
(2)派遣先のみが責任を負う事項
 労働基準法の適用につき、派遣先のみが責任を負う事項(派遣法44条2項)は、公民権行使の保障(労基法7条)、労働時間(同32条)、変形労働時間制、(同32条の2、32条の4)、フレックスタイム制(同32条の3)、休憩(同34条)、休日(同35条)、時間外及び休日の労働(同36条)、労働時間及び休憩の特例(同40条)、労働時間、休憩、休日に関する規定の適用の除外(同41条)等、これらの罰則規定、または各規程にもとづいて発せられる命令です。ただし、就業規則の定めや労使協定等の規定に関しては、派遣元の事業場で作成又は協定するように定めています(派遣法44条2項後段)。そこで、変形労働時間制、フレックスタイム制並びに時間外・休日労働の協定及び届出手続は、派遣元のものが適用され派遣元の定めや派遣元の労使間の協定が適用されます。要するに、派遣元が労働時間等の枠組みを設定し、派遣先がその枠組みに従って、労働時間を管理することになります。
(3)36協定の適用と労働条件の明示

 上述の通り、労働時間・休憩・休日の管理については、派遣先が管理し、責任を負うのですが、その枠組みの設定に関しては、派遣元で行う必要があります。派遣元と派遣先が派遣契約で1日8時間を超え、休日に労働させる契約をしていたとしても、派遣元において、時間外・休日労働に関する協定(36協定)の締結を行い、行政官庁に届け出ていなければ、派遣先は時間外労働や休日労働をさせることはできません。さらに、これらの要件を満たす場合でも、派遣先で時間外労働させることができるのは、その36協定に定める「延長することのできる時間」の範囲内であり、これに違反した場合は、派遣先も使用者とみなされ、処罰されます。

 なお、派遣先の指揮命令権は派遣元と派遣先の間の労働者派遣契約により基礎づけられるため、派遣労働者に休日労働や時間外労働を行わせるためには、労働者派遣契約上の根拠が必要です。この点につき、派遣法は、労働者派遣契約の内容として、同契約所定の「派遣就業する日以外の日に派遣就業させることができ、または…派遣就業の開始の時刻から終了の時刻までの時間を延長することができる旨の定めをした場合には、当該派遣就業をさせることができる日または延長することができる時間数」を定めることを義務付けています(派遣法26条1項、派遣法施行規則22条2項)。そして、この定めにより休日労働や時間外労働を行わせる場合、その定めは、派遣元事業所における36協定で定められている内容の範囲内でなければなりません。

(4)割増賃金の取扱い
 賃金の支払義務は、雇用契約の当事者である派遣元にあり、従って時間外や休日労働に対する割増賃金については、派遣元が使用者として責任を負い、支払わなければなりません。そこで、派遣元が派遣労働者の派遣先における時間外、休日、深夜の労働時間を把握しておかないと、適切な賃金の支払ができないことになります。このため、派遣先は、個々の派遣労働者ごとの、派遣就業をした日、派遣就業をした日ごとの始業時刻および終業時刻、並びに休憩した時間等の事項につき、1箇月ごとに1回以上、一定の期日を定めて、書面等により派遣元に通知することが義務付けられています(派遣法42条3項、派遣法施行規則38条1項)。
(5)その他の取扱いについて

 労働基準法は、休憩時間の与え方について、例外としての一定の業種(運輸、販売、金融、郵便、病院、旅館、官公署等)を除いて(労基法40条1項、労基則31条)、事業場単位で一斉に与えなければならないとしています(労基法34条2項本文)。ただし、事業場の労働者の過半数組合または過半数代表者との労使協定により、かかる一斉休憩の原則の適用を除外することができます(同項但書)。この協定に関して、締結する必要があるのは、派遣元事業主ではなく派遣先です。というのも、上述の通り、派遣法は、休憩時間に関しては、「派遣先の事業のみを」使用者としてみなして適用することを定めているからです。

 また、「監視・断続労働の従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの(労基法41号3項)」については、労働時間等に関する規定は適用除外とされていますが、この適用除外の規定は「派遣先の事業のみを」使用者とみなしています。そのため、こちらの行政官庁の許可を受けるのは、派遣先であり、派遣先がその申請をすることになります。なお、派遣先が「当該許可を既に受けている場合には、派遣中の労働者に関して別途受ける必要はない」と通達されています(平11.3.31基発第168号)。

対応策

 以上の通り、派遣先は、派遣先の36協定に基づき、派遣労働者に時間外労働をさせることはできません。
 派遣先が派遣労働者に時間外労働をさせるには、①派遣元における36協定及び届出、②派遣元との派遣契約において時間外労働をさせることが可能であること及びその可能な時間につき定められていることが必要です。そして、派遣先は、①、②に定めた時間の範囲内でのみ、派遣労働者に時間外労働をさせることができます。

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