法律Q&A

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インターンシップの学生に報酬を支払えば「労働者」と見なされるか

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2001.09.27

当社では、数年前からインターンシップ制度を実施しており、毎年十数人の学生を職場に受け入れています。実際に社員の補助業務をこなしてもらうこともあるため、参加者には日当として数千円を支給しています。先日、ある社員から、「日当を出せば、それは賃金報酬と見なされ、学生は労働者として関係法令の適用を受けるのではないか」との指摘がありました。法的にどのように考えればよいかご教示ください。

報酬の額・性質・就労条件に応じて、労働者と見なされる場合は、労働基準関係法令が適用される

1. インターンシップの概要
 インターンシップは「就業体験」とも訳されていますが、欧米で広く教育機関に取り入れられ実績を上げている制度で、学生が実務経験を積み、職業意識を高めるための企業内研修のことです。多くは、夏休みなどの長期休暇を利用して、インターンシップを受け入れる企業に学生が自発的に申しこんで行われますが、大学の正規科目のなかに組み込まれて単位を取得できる場合もあり、すでに我が国でも、大学の17.7%が導入しています(詳細は、厚生労働省「インターンシップ等学生の就業体験のあり方に関する研究会報告」<98年3月、以下「報告書」>参照)。

 インターンシップを通じて、学生にはビジネスの実地体験を通じて就職先を探すよい機会を、企業には学生の能力を試し、そのなかから優秀な学生を採用する絶好の機会を提供することになります。依然として、企業のニーズと学生が抱く企業イメージとの落差などのミスマッチによる若者の離職率・失業率が高いところから、これを防止する決め手としても期待されています。

2. インターンシップの学生に労働関係法規の適用がある場合
 インターンシップによる実習には、教育活動の一環であって、かつ、学生が労働者と見なされない場合と、実習の態様から判断して労基法上の労働者と見なされる場合とがあり、労働者と見なされる場合には、賃金その他の労働条件に関して、労基法、最低賃金法等の労働基準関係法令が適用されるとともに、実習中の事故に関しても労災保険法の適用があることに留意する必要があります(報告書および平9.9.18基発636)
3. 労働関係法規適用の有無の判断基準
 研修中の事故に対しての厚生労働省の判断は、学生が労基法9条の「労働者」に当たるかどうかという観点から行われます。例えば、通達によれば(昭57.2.19基発121)、工学部などの学生が工場実習する場合は、大学などの教育目的で、教育機関から委託費が支払われ、実習内容も教育機関での実習規定等によるもので、支給される実習手当も一般労働者の賃金や最低賃金と比較して低く、実費補助ないし恩恵的な給付であると認められる場合、交通費などが支給されていても、労災保険の適用はない、とされています。

 入社前研修でも労災保険の適用には慎重な厚生労働省の態度からすると、インターンシップでも一層労災保険の適用はなしとされる場合も少なくないでしょう。

4. 労働者と認められない場合の受け入れ企業の責任
 しかし、かりに学生が労働者と認められない場合にも、入社前研修中と同様、出退社途上の事故は別として、研修施設などの企業内の事故に対しては、労災保険の適用の有無にかかわらず、会社が学生に対し安全配慮義務を負うことは避けられず、事故への過失が認められれば損害賠償の責任が発生することになります。インターンシップを実施する企業としては、事故の可能性(リスク) を考慮して、どの程度の研修を実施すべきかを決定しなければなりません。
5. リスク管理に関する留意点
 就労中の事故へのリスクを完全に回避したいのであれば、研修をしないか、文字どおり座学の一般研修にとどめるべきです。しかし、それでは、インターンシップの趣旨である実地体験の機能を喪失させてしまうことになります。むしろ、積極的にアルバイト労働契約を結び、賃金を支払って、労災保険の適用を求め、さらには、上積み補償(民間の保険による)での対応をするべきでしょう。

 なお、学校の正課または課外活動としての実習の場合には、学生教育研究災害傷害保険(任意加入)の適用対象になります。学校が関与していない場合については、企業等または学生個人が一般の傷害保険等で個別に措置する方法があります。

 いずれにせよ、万一の事故の場合の学生個人や学校、受け入れ先企業等の負担をできる限り軽減するため、保険への加入等リスクへの備えを十分検討することが必要です。今後、インターンシップが普及するに伴い、就労中の事故にとどまらず、研修生による企業に対する損害(機器・ソフトの損壊、機密漏洩等)の発生など、さまざまな事故等が発生するリスクが増加することが考えられます。これらの対応方針等については、学校、学生と受け入れ先の3社の間で、できる限り文書等により明確化しておくことが望ましいでしょう(報告書参照)。

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