法律Q&A

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株主総会の運営

弁護士 浅見 雄輔
1997年4月:掲載(校正・小林 昌弘2001年2月)(再校正・大濱 正裕2007年12月)

株主総会をうまく運営して行くにはどうすればよいですか。

私は、A株式会社の代表取締役です。来月、株主総会がありますが、今期は業績があまりよくなく、株主総会が荒れることが予想されます。株主総会をうまく運営していく何かいい方法はないでしょうか。

議長が法律・判例で認められた議長の権限・総会の運営方法を熟知し、適宜行使選択することが必要です。

1.株主総会における株主
 株主は会社のオーナーであり、株主総会は、その会社のオーナーが会社の経営に関して質問し、発言する公式の場です。したがって、株主総会において株主に質問・発言の機会を十分に与えなければならないことは言うまでもなく、株主に質問の機会を与えないで総会を打ち切ったとするとその総会での決議は後に取り消されることになりかねません(会社法第831条第1項第1号)。ところが他方で必要以上に株主の質問・発言の機会を与えると総会屋、すなわち僅かばかりの株式を取得して株主となり、株主の権利の行使ということに名を借りて、株主総会において長時間にわたり質問を続けるなどして株主総会を混乱させ、これを嫌う会社側から不当な利益を得ようとする者の思う壷となります。

対応策

1.資格の確認
 まず、株主総会の混乱を極力防止するためには、株主総会への入場に当たって、総会に出席できる資格を有するかをしっかりと確認することが必要です。株主は代理を出席させることが認められていますが(会社法第310条)、その場合には代理人は株主からの委任状を提示しなければなりませんので(同条第1項)必ずそのチェックが必要です。なお、代理人の資格を株主に限ると定款で規定すれば、株主以外の者を株主総会から締め出すことができます(以上詳しくは設問[3-4-4]参照)。また、株主総会に出席することのできる代理人の数を制限することもできます(同条第5項)ので、これにより総会屋など招かれざる株主の参加を少しでも制約することができます。 

2.議長の議事運営権
 株主総会の運営がうまく行くかは何と言っても議長の手腕にかかっています。法律は、この議長に、総会の秩序維持権、議事の整理権及び議長の命令に従わない者その他総会の秩序を乱す者を退場させる権限を与えていますので(会社法315条)、議長はこれら権限を十分に認識し、適宜行使することが必要です。

3.議長と説明役員の分離
 総会においては、議長が自ら説明することもありますが、議長を混乱させず、議事運営に専念してもらうためには、議長には役員として説明する役割は与えず、別途説明の担当役員を設けるべきでしょう。

4.議案の審議方法
  議案を審議する方法として、個々の議案毎に上程し、審議・採決する個別上程・審議方式と、すべての議案を一括して上程して、審議し、最後にすべての議案について採決する一括上程・審議方式があります。そのどちらを用いるかはケースバイケースですが、類似の議案、関連する議案については一括して上程、審議した方が、重複の説明、質問を回避でき、総会屋の付け入る機会を減らし、時間を節約できますから一括上程・審議方式が望ましいと言えましょう。

5.一括回答方法
  総会において、質問を受けた取締役ないし監査役は、質問が株主総会の目的である事項に関しないものである場合、その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合その他正当な理由がある場合として法務省令で定める場合は説明を拒絶することができます(会社法第314条)。そして、会社法施行規則第71条は、説明義務が免除される場合として、
(1)
 株主が説明を求めた事項について説明をするために調査をすることが必要である場合(ただし、当該株主が株主総会の日より相当の期間前に当該事項を株式会社に対して通知した場合、当該事項について説明をするために必要な調査が著しく容易である場合を除く)
(2)
 株主が説明を求めた事項について説明をすることにより株式会社その他の者(当該株主を除く。)の権利を侵害することとなる場合
(3)
 株主が当該株主総会において実質的に同一の事項について繰り返して説明を求める場合
(4)
 前三号に掲げる場合のほか、株主が説明を求めた事項について説明をしないことにつき正当な理由がある場合
を規定しています。取締役がどこまで説明義務を負うのかは、実務上は極めて重要であり、判断も難しいところですが、少なくとも上記各条項を参考に、どこまでの説明が必要なのかをイメージしておくことは必要不可欠でしょう。
 なお、事前質問状が出されている場合は、質問がなされれば説明義務が発生しますが、実際に総会において質問がない限り、説明する義務を負いません。そこで、事前質問状が提出されている場合、実際に質問があるまでは回答しないというのもひとつの方法ですし、実際に質問がある前にあらかじめ一括して回答してしまうというのもまたひとつの方法です(一括回答が適法であることにつき最判昭和61.9.25商事法務1090-92)。後者の場合には逐一個々の質問を総会で受け、これに対して逐一説明するという手間を省け、仮に実際に質問があった場合には既に一括回答で説明したとおりであると対応することができます。
 このようなことを考えると事前質問状が提出されていない事項についても質問が予想される事項については、一括回答のなかであらかじめ説明しておくのが得策といえるでしょう。

6.質問の制限・質疑の打ち切り
  質問を有するすべての株主に本人が納得するまで質問の機会を十分に与えることは理想かもしれません。しかしながらそのような扱いをすれば、いつまで時間があっても足りませんし、総会屋が暗躍する機会を与えることになります。そこで、議長は、上記の権限に基づいて株主の発言に合理的な範囲で制限を加えるべきでしょう。例えば、質問する株主が多い場合には、すべての株主が質問できるように1人1問とするとか、発言は3分以内と制限することは合理的な範囲内の制限として許されるでしょう(福岡地判平成3.5.14判時1392-126)。
 さらに、議長は、株主がなお質問を希望する場合であっても、議題の合理的な判断のために必要な質問が出尽くしており、それ以上議題の合理的判断に必要な質問が提出される可能性がないと客観的に判断されるときは、質疑を打ち切ることができるとされていますので(東京地判平成4.12.24判時1452.127)、意味に乏しい質問が続くような場合には議長は質疑を打ち切るべきでしょう。

7.株主の協力
 当然のことながら、会社側を指示する株主には事前に総会の議事進行について協力してもらうよう十分に要請しておくことが必要です。

予防策

総会をうまく運営する方法としては以上のような方法がありますが、万全を期すためには、以上の点を十分に考慮にいれてシナリオなどを作り、事前にある程度のリハーサルをすることが必要でしょう。

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