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【第7編 社内犯罪対策の問題解決】 - 第2章 犯罪への対処策について -

粉飾決算や違法配当の際の刑事責任は?

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載

会社の経営者が、自分の会社の経営状況について故意に偽って報告すると、どのような犯罪になるのでしょうか。

 甲社の社長Aは、株主総会の席上で、会社として利益が出ているように見せかけて黒字の決算とし、株主に対する利益配当を実施しましたが、後日の調査の結果、当時の会社の経営状況は全くの赤字であったことが判明しました。甲社は、今のところまだ倒産せず何とかやっていますが、経営状況が厳しい状況であることは変わっておりません。Aは、何らの刑事責任も問われないのでしょうか。

会社法963条5項2号で処罰され、場合によれば特別背任罪(同法960条)の成立も考えられます。

1.Aの行為の分析
 会社の経営内容が、実際は非常に悪くて、真実は赤字決算をしなければならないのに、売り上げを水増ししたり、架空の売り上げを計上し、さらには、経費を圧縮したり、負債を子会社に転嫁したりして、利益が生じているように見せかけて黒字決算することを、粉飾決算といいます。ところが、株式会社においては、利益があって、初めて、株主に対する利益の配当(会社法上は「剰余金配当」と規定されています)や役員など重役の賞与が出せることになっています(会社法461条)。従って、本来なら利益が無くて赤字決算をしなければならない場合は、株主に対する剰余金配当や重役に対する賞与は出せないのですが、粉飾決算をすることによって架空利益を計上して株主に剰余金配当や重役に賞与を出して、表面上は会社の内容が良く経営者の手腕があるように見せかけるのは、犯罪として処罰することにしております。なぜなら、粉飾決算をして剰余金配当や役員賞与を出したりすることは、現実に会社の財産の減少をもたらし、株主の利益を害することになるからです。利益が無いのに株主に剰余金配当をすることを「タコ配当」ともいいますが、これはタコが自分の足を食べるということからきています。また、更に会社の経営状態を信用して取引をする債権者に大きな被害を及ぼす恐れがあります。
2.Aの行為の犯罪性
 会社法はこのような粉飾決算をし、架空の利益を計上して剰余金配当をすると、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金で処罰することにしています(会社法963条5項)。さらに、架空利益の計上による剰余金配当や役員の賞与が、自己の経営者としての地位の保全あるいは役員や株主の利益を図ったものであるときは、特別背任罪となり、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金刑で処罰されることになります(会社法960条)。この特別背任罪とは、刑法に定められている背任罪の特別規定で刑が重くなっているものです。刑法の背任罪は、他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り、又は本人に損害を加える目的でその任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加える罪で、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金刑で処罰されるものです(刑法247条)。会社の役員は、会社の利益のために誠実に職務を行う義務があり、この義務に違反して自己もしくは第三者の利益を図り又は、会社に損害を加える目的で会社に損害を及ぼした行為をすれば、特別背任罪となり重く処罰されるのです。
3.特別背任罪について
 ところで特別背任罪の成否は、どのような条件の下で会社に財産上の損害を与えたかによります。株価の不安定や企業の信用失態を阻止するためといっても、過去の蓄積を食いつぶした上、粉飾決算をして利益が無いのに利益があるようにして株主に剰余金配当したり、役員に賞与を出すことはそれだけ会社に損害を与えたことになり、これが背任罪の要件である損害となり、又、それを許した役員は任務違背を犯した事になるのは当然のことです。しかし、特別背任罪が成立するためにはさらに、役員が自己又は第三者の利益を図ったか、会社に損害を与える目的を図ってしたことが必要となります。そこで、一時的な経営不振の事実が明るみに出ることによって、会社の信用が失墜し、業績回復の手段が断たれる恐れがあるということから、一時的に粉飾して、剰余金配当をし、会社の信用低下を防ぎながら会社の業績回復を図ることが会社の利益になるということで会社のためにやったような場合が問題となります。この場合でも一方では、株主や取締役の金銭的利益、取締役の経営者としての面目や地位の保全という自己又は第三者の利益を図る面があることを否定できないからです。このような場合、背任罪になるかならないかは、自己又は第三者の利益を図る目的と、会社の利益を図る目的のいずれが主であるかにより、主として会社の利益を図る目的であったことが認められれば特別背任罪で処罰されることはないとされています。しかし、この場合でも、先に述べた架空利益の計上により剰余金配当を禁じた会社法963条5項2号で処罰されることを忘れてはいけません。
対応策
 Aの主観的意図が明らかではありませんので、なんともいえませんが、Aの主な意図が、株主や債権者らに甲社の経済的状況を知られてしまうと回復不可能な打撃を受け倒産しかねないので、とりあえず一時的に粉飾してその場を乗り切ろうという甲社の利益を図る点に主眼があったとすれば、特別背任罪の成立は難しそうで、たこ配当の点で会社法963条5項2号による処罰の可能性があるだけです。
 一方、Aの主な意図が、会社の利益というよりむしろ甲社の最高責任者としての自分の至らなさを公表するのが嫌だとか、自分が甲社のお金を使い込んだ事実を隠蔽しようとかいうような自己又は第三者の利益を図ろうとしたものが主眼の場合は、会社法963条5項2号による処罰に加えて、特別背任罪の成立が考えられるのです。
 社長としては、安易な帳簿上の操作でも処罰されることもあることを肝に命じるべきでしょう。

(C)2002 Makoto Iwade,Japan

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