法律Q&A

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121条による両罰規定の対象範囲は。

弁護士 筒井 剛(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2003.09.05

労基法121条では、両罰規定として「この法律の違反行為をした者が、・・・・事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を課する」と定めています。この「事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者」の対象について教えてください。

労基法10条の使用者の範囲より狭く、従業員以外の者は含まれない。

1. 労基法121条の趣旨
 労基法121条1項は「この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業員である場合においては、事業者に対しても各本条の罰金刑を科する。但し、事業者が(一部省略)違反の防止に必要な措置をした場合においては、この限りではない。」と規定しております。

 労基法は、近代刑法の原則に基づき、行為者処罰の建前をとり、労基法10条でいう使用者の違反行為が処罰の対象となっています。もっとも、使用者概念は極めて広く、取締役・工場長等は言うまでもなく、支店長・課長・現場監督等々の下級職員も含み得ます。これらのいわゆる従業者たる使用者が、法違反を犯せば当然処罰されます。

 しかしながら、従業員たる使用者は、あくまで従業員であり、事業主のために事業主に対する義務の履行として法違反行為をなしているのが現実であり、その利益を享受する事業主が全く処罰されないのは妥当ではありません。

 そこで、そのような場合に事業主を処罰するために労基法は121条1項を規定したのです。このような規定を両罰規定といいます。

2. 「代理人、使用人その他の従業者」の意義
 では、「代理人、使用人その他の従業者」とは、どのような者をいうのでしょか。

 原則としては、労基法10条にいう事業主以外の使用者がほぼこれに該当することとなります。

 具体的には、支配人などが「代理人」の例であり、「代理人、使用人以外の従業員」としては、代表権なき取締役がその典型例といえます。(昭23・3・17基発461号、昭23・2・13基発90号)。

 もっとも、従業員以外の者の違反行為については、事業者は同条に基づく責任を問われません。具体的には、「当該事業の従業員でない者で、労働者に関する特定事項(例えば、労働契約の締結)について委任された者が、事業者の関与しない法違反行為(例えば、労基法14条違反の労働契約の締結)をする場合、本条に基づき事業者が処罰されることないと解されております(昭23・3・17基発461号、昭23・2・13基発90号)。

 この意味において、本条の「代理人、使用人その他の従業者」は労基法10条の使用者の範囲から、事業主を除いたものよりさらに幾分狭くなるといえます(昭22・9・13基発17号)。つまり、労基法10条の使用者は従業員に限られていないのに対し、本条1項本文においては従業者に限られており、その意味で10条の範囲より本条の範囲の方が狭いと解されているのです。

 なお、判例においては、法人の代表者扱いをどのようにするかが、問題となりましたが、「代理人」に含めて解釈すべきとし、法人の代表者については、本条の範囲内であるとしました(日本衝器工業事件・最決昭34・3・26刑集第13巻3号401頁)。

3. 事業主の注意義務の範囲
 もっとも、従業者の違反行為防止のために必要な措置をとっている事業主まで罰するのではかえって不当であることから、そのような者は同条但書によって除外されています。

 では、事業主はいかなる注意義務を履行すれば、労基法121条1項本文の処罰を免れるのでしょうか。

 判例におきましては、「単に一般的抽象的に労働基準法第何条の違反のなきように防止せよと注意したのみでは足りない」(大阪高判昭25・11・25労基集1集370頁)とし、「違反行為の防止のために具体的注意義務を与え、個別的な監督等必要な措置がなされることが要請されるものと解すべき」(上六観光トルコ温泉事件・最判昭42・11・8刑集21巻9号1216頁)としています。

 具体的には、[1]社内の回章による伝達、指導教育、宿舎や休憩所での労基法の掲示、人事課長による説明等によって末端授業員に周知徹底させていたような場合は、「必要な措置」を講じていたと認められる(大阪地判昭24・7・15)としております。

 もっとも、[2]上記の上六観光トルコ温泉事件においては、トルコ娘の採用、監督につき、従業員に月一回程度就業態度について、訓示する程度で、戸籍謄本ないし抄本もとらず、年齢確認はきわめて杜撰であったとして、違反の防止に必要な措置をとったとはいえないとし、[3]三和電線工業事件においては、時間外労働の事実が存在し、それを認識していたような場合、時間外労働に従事させてはいけない旨の注意書きを職場の入り口に貼付していただけでは「必要な措置」とは認められない(甲府地判昭26・3・14労基集1集311頁)としておりますので、この点は注意が必要でしょう。

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