法律Q&A

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契約の成立時期は?

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載

注文もしないのに勝手に商品を送り付けられ代金を請求された場合、どのように対応すべきでしょうか。

甲社は食品販売会社ですが、数年前に数回ほど取引をしたことがある乙社から1ヶ月くらい前に新製品紹介のパンフレットが届きましたが、甲社はそのままにしていました。ところが、昨日郵便でその新製品が甲社に送付され「代金のお支払いは翌月末までに」とする請求書が入っていました。甲社とすれば、どう対応したらいいですか。

契約の成立を否定して、乙社から送られてきた商品を返還し、代金請求は拒絶すべきです。

1.契約の成立時期について
 皆さんの中には、契約が成立するのは契約書に調印した時だと考えている人もいるかもしれませんが、契約書の作成が契約の成立に何らの影響を与えていないことは、設問[1-1-2]の解説で述べたとおりです。もともと、契約とは、申込と承諾という交差する意思表示の合致により成立するのです。
 例えば、「この商品を1万円で買いませんか」という売主の申込の意思表示と「はい、買いましょう」いう買主の承諾の意思表示があればそれで契約は成立し、契約書は、主に後日の紛争予防のために申込と承諾という2個の意思表示を1つの書面にまとめ証拠書類にしたものと考えられるのです。
 本設問では、郵便で商品が運ばれてきておりますが、法律上申込と承諾の問題は「対話者間」と「隔地者間」の2つに分けて考える必要があり、本設問は郵送によるものであり後者の問題となります。
2.民法の法則
 隔地者間における申込は、文書が相手方に到達した時に効力を発するとされています(民法97条1項)。文書を発信した時でもありませんし、相手方が文書を実際に読んだ時でもありません。到達があれば相手方が実際にこれを読まなくても申込の効力は発生するのです。一方、承諾の効力は、同じ意思表示でも発信時に効力が生じます。なぜなら、この時点で意思表示の合致が認められるからです。
 では、申込の効力はいつまで続くのでしょうか。この点については、「承諾期間の定めがある場合」についてはその期間内の申込の取消は出来ないと定め、その期間内に承諾通知を受けない時は申込の効力は失います(同法521条)が、「承諾期間の定めがない場合」の申込は、隔地者間の場合は承諾通知を受けるのに相当な期間は取消が出来ないとされています(同法524条)。この相当な期間というのは、申込を受けた者が諾否を考慮し且つ承諾の通信をするのに必要な期間を基準にして考えざるを得ません。
3.商法の特則
 本設問は商人間の法律関係ですので、商法が適用され次のような特則があります。
(1)対話者間の申込は、その場で承諾がなければ効力を失う(商法507条)商人は取引のプロであり、気も短いということです。
(2)「隔地者間で承諾期間の定めがない場合」は、相当の期間内に承諾通知を発しない時には、申込がその効力を失います(同法508条)。
(3)当事者間に平常取引が存在するような場合は、申込に対して遅滞なく回答をしなければならず、これを怠れば承諾したものとみなされます(同法509条)。
商人間の平常取引とは、ある程度継続して取引関係がある場合の取引のことをいい、本設問の乙社のように数年前に数回取引があるだけでは、甲社の平常取引の相手方には該当しないでしょう。

対応策

 乙社から甲社に対する新製品のパンフレットの送付があったことで、乙社から甲社に対して売買の申込があったと認定することが出来るでしょう。但し、理論的には、まだ申込があったとは言えず「申込の誘引」(相手方に申込をさせよう、申込をして欲しいという意思の通知のことを言います)があったに過ぎないと考えることも出来ます。パンフレットに同封されていた資料等の具体的状況により判断するしかないでしょう。
 本設問は商人間の取引ですので商法に則って判断しますと、甲社はパフレットが送付されてから約1ヶ月もなんの返事もせずに放置していたのでありますから、相当期間内に承諾通知を発していないと考えられます。従って、同法508条により乙社の申込の効力は失われていますので、契約の成立を前提とする乙社の主張は理由がなく甲社としては何ら応じる必要はありません。同法509条の適用については、解説本文にも書きました通り、甲社と乙社が平常取引をしていたとは言えそうにないので、問題にはならないでしょう。

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