法律Q&A

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申込証拠金の返還請求は可能か?

申込証拠金を払った上で契約の締結を中止しましたが、申込証拠金の返還を請求できますか。

甲社は、先日、新たな事務所を開設すべく売り出し中のマンションの見学に行ったところ、気に入った部屋がありましたが買う決心まではつかなかったところ、売主乙が「とりあえず申込証拠金を8万円支払ってもらえれば決心がつくまで他に売るのを止めておきますよ」と言ってくれたので、8万円をとりあえず支払いました。しかし、甲社は検討の結果結局は買う決心がつかずその5日後に売主乙にその旨を伝え8万円の返還を求めましたが、これを拒否されました。申込証拠金は返してもらえないのでしょうか。

8万円を甲社が預けた時に、没収拘束がなされていたり、契約内容等が相当具体化していたりしない限り、返還できる余地はありそうです。

1.申込証拠金の趣旨
 土地、建物の売買の際に、正式に契約に至る前に、買受希望者から売主に、申込証拠金と呼ばれる少額の金銭の支払いがなされることがあります。申込証拠金を授受する趣旨は、一般的には、買受希望者が単に冷やかしではなく、真剣に物件の購入を検討しているという、買受意思の真摯性を示すことと、売主において、買受希望者が正式に契約をするか否かを決めるまでの間、物件を他に売ることを止めておくことにより生ずるかもしれない損失の補償という2点にあると考えられます。ただ、現実には、本設問のように、売主が、申込証拠金を受け取ることにより、契約締結への足がかりにしようという目的で、売主側からの強い要請により授受されることが多いようです。ところで、申込証拠金が授受された後、契約が成立すれば、その申込証拠金は代金の一部に充当されることになり、問題はありませんが、本設問の場合のように、契約に至らなかった時に、申込証拠金の授受の趣旨が必ずしも明確でないことから、その返還の要否を巡り紛争になることがあります。
2.申込証拠金の法的性格
 申込証拠金の返還の要否を決めるについては、先ず、申込証拠金を授受する行為の法的性格を明らかにしておくべきでしょう。これについては、大きく分けて 2つの種類があると考えられます。1つは、売買の予約契約についての手付契約で、もう1つは、先に述べた買受意思の真摯性と売り止めの代償という趣旨の下に金銭の交付を伴なってなされる特殊な契約です。そして両者は、申込証拠金授受の際に、目的物、代金額など売買契約の主な内容があらかた決まっており、将来、売買契約を締結しようという意思が固い場合には、前者に該当し、そこまで至っていない場合には、後者に該当するという形で区別できます。
3.申込証拠金の返還の要否
 申込証拠金が、売買予約の手付である場合には、通常の手付と同様に、買受希望者は手付を放棄して予約契約を解約し売買契約を締結しないことができ、本設問の場合であれば、甲社は申込証拠金の返還を乙社に対して求められないことになります。しかし、本設問では手付契約と解釈されるだけの甲社の本契約締結意思の堅固さを伺わせるような事情は見受けられません。従って、本設問の場合は、先ず、当事者間で、証拠金の返還について、何らかの合意があれば、これに従うことになります。合意がない場合には、申込証拠金の授受された状況などから判断して、これが申込の真摯性を保証する趣旨だけと解されるのか、売り止めの代償を担保する趣旨をも含むと解されるのかにより、前者ならば、返還すべきですが、後者ならば返還する必要がないということになります。しかし、このことは、あくまでも当事者双方が、申込証拠金の趣旨を理解している場合に妥当するものです。現実には、売主が、申込証拠金の趣旨を説明しないままいかにも買わない場合には返還するかのごとき話をして、これを受領していることがあるようです。このような場合には、申込証拠金を返還する旨の暗黙の合意があったとみられることもあるでしょう。また、すぐ買手がつく見込みもないのに、売主がすぐに売れるかのような必要以上に客の焦燥感をあおり、これに乗じて申込証拠金を受領した場合には、詐欺を理由に返還を求めることが可能な場合もあるでしょう。

対応策

行政側では、申込証拠金について、合意がない場合には、返還することが望ましいと指導しているようですが、これは、おそらく、金額が少額であることや、買受け意思の真摯性を保証する趣旨のもとに申込証拠金が授受されることが多いという点、さらには、申込証拠金授受の際に売主が十分な説明をしていないという実態等に鑑みて、そのように指導をしているものと思われます。従って、本設問の甲社の場合も、8万円という額の少なさや、売主乙が申込証拠金の話を最初に出したにもかかわらず、十分な説明がなされていないこと等により、8万円の返還を求めることが出来る可能性は高いと思われます。

予防策

申込証拠金の返還の要否は、どちらにせよ、申込証拠金授受の趣旨から考えられるべきものですが、申込証拠金授受の際に、その返還についての明確な定めをしておけば、このような紛争は避けることが出来ると思われます。

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