法律Q&A

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債務不履行

弁護士 中村 博 1997年4月:掲載
弁護士 鈴木 みなみ 2016年8月:補正

納品期限に違反した場合、違反した当事者に対しては、どのようなペナルティーが課せられるのでしょうか。

甲は日用雑貨を取扱っている個人商店ですが、最近卸問屋の乙社からの納品が遅れて困っています。これではとても商売にならないのでクレームをつけたいのですが、どのような手段が取れますか。

甲としては、速やかに債務を履行するように要求(できたら書面で)した上で、契約の解除や損害賠償請求ができます。

1.債務不履行とは?
 契約関係にあり一定の債務を負う当事者が、債務の本旨にしたがった履行をしないことのこと(民法415条)、つまりその債務を負うことによって当然期待される履行をしないことを「債務不履行」といいます。 何が債務の本旨にしたがった履行であるかは、法律の規定や契約の趣旨、取引慣行等を基準として判断されますが、通常次の3つに分類されます。

(1)履行遅滞
 履行遅滞とは、債務の履行が可能であり債務の遅滞を正当化する事由がないにもかかわらず、債務者の責めに帰すべき事由により履行期に履行をしなかったことを言います。履行遅滞の場合、債権者が可能なこととして、遅延による損害賠償請求と契約の解除(同法541条)があります。なお、この2つについて、契約を解除した上で損害賠償を請求することも可能であり(同法545条3項)、また、契約を解除しないままで損害賠償を請求することもできます。

(2)履行不能
 履行不能とは、債務者の責めに帰すべき事由により、債務者の履行が不可能になったことを言います。「不能」とは、物理的に不可能な場合に限らず取引観念上の不能も含まれます。履行不能の場合、本来の履行に代わる損害賠償請求と契約の解除(同法543条)があり、解除するしないにかかわらず損害賠償請求が可能な点は1と同じです。

(3)不完全履行
 債務が履行されたが、その内容が債務の本旨に従わない不完全なものである場合をいい、1と2以外のものをいいます。不完全履行の場合、履行が不完全であったことによって生じた損害賠償請求と契約解除権が発生し、追完が可能であるような場合は債務の本旨にしたがった完全履行請求権も発生します。

2.契約期限が守れない場合は?
 設問の場合のような「履行の遅れ」とは、債務を履行すべき時期が到来しており、かつ債務者が履行可能であるにもかかわらず債務者の責めに帰すべき事由により履行されないことをいい、履行遅滞の問題となります。
 この場合、債務の履行期限がどのように定められているのかによって、対応が異なります。

 まず、確定期限付債務、たとえば○月○日に商品が納品されるといったような、ある決まった日までに履行をすることとなっている債務の場合、期限が到来することにより当然に履行遅滞となります(民法412条)。この場合、債権者は相当の期間を定めて催告した上で、解除することができます(民法541条)。この催告中に債務者からの履行があった場合、債権者は損害賠償ができるのみとなります。

 ただし、商品の中には、たとえば結婚式の引き出物のように時期が過ぎて商品が納品されたのでは全く意味がないこともあります。これは定期行為と呼ばれるもので、こ場合は、債権者は、催告なく解除が可能であり、また、債務者に対して履行に代えて全部の損害賠償の請求が出来ます。

 次に、期限の定めのない債務の場合は、債務の発生と同時に履行期が到来するとされています。したがって、債権者は債務者に対し、いつでも履行を請求でき、債務者が履行の請求を債権者から受けたときから履行遅滞となります(同法412条3項)。ただ、消費貸借の場合は、相当の期間を定めて履行を催告しなければ履行遅滞にならないことは注意が必要です(同法591条1項)。

 最後に、不確定期限(例えば、特定のスポーツチームが優勝したら、など期限の到来が確定していないことをいいます)付債務の場合、債務者が期限の到来を知った時から履行遅滞になります(同法412条2項)。債権者からの催告は必要ありません。

対応策

 通常の商品は、確定期限付債務である場合が多いでしょう。そのような場合は、甲とすれば、乙社に対して遅延による損害賠償の請求をすると同時に商品の一刻も早い納入を要求すべきです。もし仮に商品が五月人形やクリスマスツリーなどの場合、乙社が商品を遅れて納入してきてもこれを拒絶して履行に代わる全部の損害について賠償請求すべきでしょう。
 商品の納入に特に期限をつけていなかった場合には、甲がまず乙社に履行を請求する必要があります。それでも乙社が商品を納入しないようなら、先ほどと同じようなクレームになるでしょう。
 不確定期限の場合、甲が乙社に期限の到来を確認(催告ではないことに注意)した上で乙社が履行しないようなら、これまた先ほどと同じようなクレームをつけることが出来るでしょう。

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