法律Q&A

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内金の効果

弁護士 浅見 雄輔
1997年4月:掲載

売買代金の一部を内金として相手方に支払いました。最終決済は、約1カ月後なのですが、何か特別な効力があるのですか。

A社は、B社から代金1億円で土地を購入する契約を締結し、内金として1000万円支払いました。残金の支払い並びに所有権移転登記手続き及び引渡しは、1カ月後と決まりました。この内金として支払った1000万円は何か法律的に意味があるのでしょうか。

内金には契約が正式に締結されたことを示す効力があるほか、反対の特約のない限り、売主・買主ともに内金相当額を損することにより契約を解除できる権利が留保されるという効力を持ちます。

1. 証約手付
 本件のように、売買契約の締結後、売買代金完済までの間に買主から売主に売買代金の一部が交付されることはよく見かけることですが、このようなかたちでの金銭の交付は、「内金」あるいは「手付」と言われることもあります。この内金・手付は(以下「手付」といいます。)、売買契約の他、賃貸借契約や請負契約などでも行われることがあります。それではこの手付は法律的にはどのような意味があるのでしょうか。
 まず挙げられるのは、手付の交付により、売買契約が正式に締結されたということが示されるということです。すなわち、売買契約が正式に締結されるまでには、買主と売主の間で様々な交渉があり、また、様々な口約束が取り交わされることもあり、いつ売買契約が正式に締結されたのか不明確な場合があります。しかし、少なくとも、買主から売主に対し手付が交付されたのであれば、その時点で、売買契約は正式に締結されたと認定されるのです。このような効力を有する手付を「証約手付」といい、手付が交付された場合には、必ず、証約手付としての性質を有することになります。
2. 解約手付
 次に、手付は、「解約手付」の性質も有すると解されます。解約手付とは、手付が交付された場合には、その手付の相当額を相手方に取得させれば、その売買契約を解除できるという性質を持つ手付のことをいいます。すなわち、買主は、既に交付した手付を放棄すれば、売買契約を解除することができますし、売主は、買主から交付された手付を倍にして返還すれば、やはり売買契約を解除することができます。そしてこの手付による解除の場合、特に反対の意思表示がない限り、その他に損害賠償義務を負うことはないのです(民法557条2項)。
 売買契約に際して手付が交付された場合には、特に反対の意思表示がない以上、当然に解約手付と解釈されます(民法557条1項 最判昭和29.1.21民集8-1-64)。
 但し、この解約手付による解除は、相手方が「履行の着手」をした場合には行使することができなくなります(民法557条1項但書)。
 ここで「履行の着手」とは、債務の履行行為の一部をなし、または、履行を為すために必要な前提行為をなすことをいいます。そこで例えば、土地の買主が履行期後、売主に対してしばしばその履行を求め、売主がその土地の所有権移転登記手続をすれば、いつでも支払えるように残代金の準備をした場合には売主は手付の倍返しをして契約を解除することはできなくなりますし(最判昭和33.6.5民集12-9-1359)、第三者所有の不動産の売買契約において、売主がその履行の前提として当該不動産につき所有権を取得し、かつ、自己名義の所有権移転登記を得た場合には買主は、手付を放棄して売買契約を解除することができなくなります(最大判昭和40.11.24民集19-8-2019)。但し、この「履行の着手」の認定は、ケースバイケースであり、微妙な判断を要求されることになることにはご留意下さい。
3. 違約手付
 さらに、手付が交付された際に、当事者間で約束すれば、その手付に「違約手付」としての性質を持たせることもできます。
 違約手付とは、相手方が債務不履行をした場合に、売主は手付を没収し、買主は手付の倍返しの請求をすることができるというものです。この違約手付には、手付とは別に現実に生じた損害賠償をさらに請求することのできる「違約罰」と、手付とは別には損害賠償を請求できない「損害賠償の予定」(民法420条)の二つがありますが、特に定めがなければ、一般的には損害賠償の予定と解されます(民法420条3項)。

対応策

 以上のとおり、本件内金は、当然に、証約手付及び解約手付と解されることになります。従って、A社としては、B社が履行の着手をするまでは、内金を放棄して契約を解除することができますし、逆にA社は、残金の支払義務につき履行の着手をするまでは、B社から内金の倍返しにより、契約の解除をされることもあります。
 なお、売買契約が解除されることなく、順調に進めば、内金は代金に充当されることは当然です。

予防策

このように内金・手付の交付は、解除権の留保ということになりますから、契約の解除を欲しない場合には、契約書に内金・手付の放棄・倍返しにより契約を解除することはできない旨を明記しておく必要があります。

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