法律Q&A

分類:

継続的商品取引

弁護士 近藤 義徳(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載

問屋との間に商品の納入に関する契約を締結したいのですが、特に留意する点はありませんか。

問屋と契約を締結した後に、問屋の資金状態が悪化していることが分かりました。代金の回収ができそうもないので出荷停止や契約解除をしてもよいでしょうか。また、契約の途中に、他にもっと条件のよい問屋さんが現れたときは、今の取引を打ち切ることが出来るでしょうか。期限を定めていた場合は、その期限が来れば取引を打ち切ることに問題はありませんか。

契約を締結すれば、その解消は容易に認められないことに留意せよ。

1. 問題の所在
商品の売買は、一回だけで終わる場合もありますが、長期間継続的に商品を納めることを予定している場合もあります。一回だけの売買については民法に規定がありますが(民法555条以下)、継続的に商品を納める契約については直接の規定はありません。
 そこで、どのような場合が継続的商品取引契約となり、どのような場合に給付を拒否したり契約を終了させられるかが解釈上問題となります。
2. 継続的商品取引契約の成立
 継続的商品取引契約であるためには、【1】一定の種類・性質の商品を、【2】一定の(基準による)対価で、【3】一定期間(または不定期間)継続的に供給されることの合意が必要です。
 そして、当事者が、継続的に商品取引を行う意思をもっていたかどうかは、単に契約書の文言のみではなく、契約締結に至った当事者の利害得失、当事者間の取引方法を総合して判断されますから(大阪地判昭58.3.28判時1096-102)、一定地域での販売を独占するなどの特約店関係がある場合には、当事者が継続的商品取引契約を予定していると判断される場合が多いでしょう。
 なお、判例には、契約書において、契約期間を短期に限定し、当事者の一方からの不更新の通知によって契約関係が終了するものとされている場合は、継続的契約関係とは言えないとするものがありますが(東地判昭62.12.16判時1289-68)これも当事者の意思を実質的に判断したものと思われます。
3. 継続的商品取引契約の効果
 継続的商品取引契約は、長期間の給付の継続を予定している密接な関係ですから、当事者の公平や信頼の保護が重視されます。

<1>契約中の効果

【1】同時履行の抗弁権
 継続的商品取引契約の当事者も、自分の債務の履行について同時履行の抗弁権を主張できます(民533条)。しかし、商品の供給が買主の命運を左右することがあるため、判例は、「買主に軽度の債務不履行しかない場合は、売主は商品の出荷を停止できず、商品の出荷停止もやむを得ない程度の義務違反が買主にあった場合に限り、その違反に相応する程度で将来の履行を拒絶する事ができる。」としています(東地判昭47.5.30判タ283-274)。そして逆に、売主の出荷制限によって買主が損害を受けたときは、その出荷制限前に納品された商品の代金債務があっても、損害分については支払を拒絶できるとしています(大阪地判昭47.12.8判時713-10)。
【2】不安の抗弁権
 ところで、商品先渡しの継続的売買契約成立後、買主の支払能力が著しく低下して代金を回収できない事情がある場合には、売主に商品を納入させるのは酷なので、買主が担保を提供するなどして代金回収の不安が解消されない限り、売主は商品の納入を拒否できるとされています(東地判昭58.3.3判時1087 -101)。

<2>契約の終了

【1】解除(債務不履行のある場合)
 継続的商品取引契約が解除されると、解除された当事者の不利益が大きいため、解除するためには、相手方に軽微な債務不履行があっただけでは足りず、契約の継続を期待しがたいような重大な債務不履行があることが必要であるとされています(東地判昭59.3.29判時1110-13)。
【2】解約告知(債務不履行がない場合)
 継続的契約において期間の定めのない場合は、いつでも解約できるのが原則ですが(民627条1項、651条1項、663条1項)、継続的商品取引契約では、相手方の契約継続に対する信頼を保護する必要があるため、相手方に契約関係の継続を期待できないような事由がある場合に解約が認められると解されます。
【3】期間満了
 期間を定めた契約は、通常期間満了によって終了します。ところが、継続的商品取引契約においては、期間満了によって契約が終了するかどうかについても、契約締結の経緯、その性質、終了によって当事者が受ける利害得失等、事案の特質を考慮すべきであり、債務不履行又はこれに準じる事由に限らないが契約を終了させてもやむを得ない事由がある場合に解約を告知できるとされています(札幌高決昭62.9.30判時1258-76)。

対応策

以上のとおり、継続的商品取引契約は、契約当事者に対する拘束が強く、当事者の実質的公平が重視されています。したがって、問屋に商品を納入する業者は、継続的商品取引契約をした場合の利害得失を考えて慎重に判断しなければなりません。 一般的には、【1】長期間に亘って商品の安定した供給が可能かどうか、【2】将来他の問屋に特約店資格、または独占的販売権を与える可能性があるか、【3】問屋が他の納入業者と取り引きする可能性があるか、【4】問屋の代金支払条件と支払能力に問題はないか等を考慮して取引関係に入るべきでしょう。

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