法律Q&A

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消費貸借契約での注意点

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載

事業資金調達のための借金をする際の注意事項は何ですか。

甲社は、どうしても事業継続のために資金調達手段として借金をせざるをえなくなりました。トラブルを未然に防止するためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。

無理のない返済計画を立てて、必ず契約書を作成して、契約内容を明確にしておきましょう。

1. 借りる側の基本的注意事項
 事業資金調達手段のもっとも一般的なものが「借金」です。借金は、法律上「金銭消費貸借契約」と呼ばれています(民法587条)。借金をする場合には、相手方が金融機関の場合、一般に印刷された定型の契約書式が準備されているのが通常ですが、複雑で素人には分かりにくい表現が多いですから、金融機関の担当者に十分に説明を求めたりしてその内容を十分理解してから契約を結ぶようにしてください。これは、当然のことであるにもかかわらず、実行されていない基本的なことです。
契約を締結する時は、代理人で行うことは極力避け、どうしても代理人を選任せざるをえない時は、信頼できる人を選び、且つ、白紙委任状を出したり委任状に「捨印」を押したりしないように(設問[1-1-2]参照)気をつけてください。
2. 契約書作成のポイント
(1)金額
金額と実際に授受のあったことを明記してください。なお、現金の代わりに手形を振出し交付しても消費貸借契約は成立します(手形貸付)。この場合、契約の成立時期について問題がありますが、手形の額面金額について契約が成立します。つまり、手形割引などによって額面金額に満たない金額しか入手できなかったとしても、返済しなければならない元本額は手形の額面金額となるわけです。しかし、手形が不渡りとなり割引によって入手した金員を返還させられた場合は、金銭消費貸借契約の効力はないといえるでしょう。

(2)利息及び期限後の損害金
利息制限法とその違反の際の契約の効力については設問[1-4-2]を参照してください。なお、法定利息は民法では年5分です(同法404条)が、商人間では年6分とされており(商法514条)、何の定めをしなくても年5分の利息は請求できることに争いはないでしょう。

(3)返済期限
確定期限が無難でしょう。分割払にする時は、支払遅滞を起こすことがないように無理のない返済計画を立てるようにしましょう。なお、返済期限を定めない場合は、貸主がいつでも相当期を定めて返還を請求でき、借主としてはこれに従わざるを得ませんので注意すべきでしょう。

(4)期限の利益喪失条項
分割払や返済期限が長い場合に、必ず貸主から要求される条項です。本設問においては、「借主が期限がまだ到来しないうちは債務の履行を貸主から請求されないとする利益」のことを期限の利益といいますが、借主が何回か支払を遅滞してこの条項の適用を受けますと遅滞した額だけでなくその当時の残債務全額を一括で貸主が借主に支払わざるをえなくなります。従って、借主としては、出来るだけこの条項の適用を避けられるように、遅滞の回数を出来るだけ増やしておく等しておくのが無難でしょう。

対応策

借金する際の法律的な注意点は解説に述べた通りですが、この様な対策の前提として普段からの金融機関との付き合いが重要であることはまず間違いありません。そこで、最後にスムーズに借金する為の注意点を箇条書きでまとめます。

1.会社の規模に応じて金融機関を選べ
中小企業は「地方銀行」又は「相互銀行」をメインバンクとすべきで、社歴や規模が更に小さい場合は「信用金庫」や「信用組合」を相手にすべきでしょう。

2.メイン銀行を明確にすべし
こうしないといざという時に親身になって相談してくれる金融機関がなくなります。ただ、過度に付き合うのも問題です。1銀行に依存すると借入れの際に市場原理が働きにくくなり不利益を被ることもありますので注意が必要です。中小企業では、メイン1つとその外に1~2つのサブ銀行を持つのがベストです。

3.メイン銀行に対する配慮を忘れずに
不動産の担保はメイン銀行を抵当順位の第1位にすべきだし、後順位担保の設定の際には必ずメイン銀行に報告しましょう。常に預金と借入金は一番多くし、業績の報告は会社の決算が終わった段階で必ず決算書のコピーを社長自ら銀行に持参して行うべきでしょう。このことは、借入しているサブ銀行に対してもすべきでしょう。

4.銀行マンと上手に付き合う
銀行の担当者は、預金をして欲しいとかクレジットカードを作って欲しいとか給与振込を当行でお願いしたいとか様々なことを頼みに来ますので、出来うる限りこれをむげに断らないで誠意を持ってこれに対応しましょう。会社は銀行のお陰で商売が出来ていることを忘れては行けません。同業者の会合などで事業資金を必要としている会社を紹介してあげたりすると喜ばれるでしょうし、たまには食事やゴルフで接待することも肝要です。

5.事前準備をしっかりと
資金が何の為にいくら必要なのか、返済の原資は何なのか、担保は何を差し入れるのか等の資金繰り計画をしっかり立てた上で、少なくとも借入を受けたいとする時期の2ヶ月くらい前から交渉を開始します。最初は担当者に口頭で打診しその反応を見ましょう。不安な場合は、別の金融機関に話してみることも必要です。その次の段階として、資料(借入申込書・決算書、試算表・月別資金繰り表・見積書等)を銀行に提出しましょう。資料作成作業は面倒ではありますが、厭わずにやりましょう。銀行としては、相手方の実態や実績等が何も分からない状態で比較的大きなお金を貸すわけにはいきません。資料を提出後は、途中で進行状況を確認すべきでしょう。担当者は決済が下りるまで大丈夫とはいいませんので安心できません。だいたい、交渉から借入が実行になるまでに少なくとも2ヶ月程度はかかると覚悟していた方がいいでしょう。

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