法律Q&A

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利息の定めと利息制限法

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載

契約書で定められた利息が利息制限法を大きく上回る率であった場合の効力と過払払い後の処理は?

甲社は、資金繰りに困り銀行等の金融機関からの融資を一切断られたため、藁にもつかむ思いで取立てが厳しいことで知られている乙社という貸金業者から1000万円を2年ほど前に借入れ現在返済中です。当時、甲社は利息制限法の存在を知っていましたが、詳しい制限利率までは知っておらず、ともかく乙社のなすがままに契約せざるを得ませんでした。現在のところ、何とか毎月返済していますが、甲社と乙社との間での約定利息は年4割であり、既払いの利息の合計額が既に約1000万円くらいになろうとしており、一方元本の残額はまだ約500万円もあります。甲社は約束した以上、利息と残元本をこのまま支払わざるをえないのでしょうか。

契約全体の無効を主張することは困難ですが、過払い分は元本充当され、それでも過払いの場合は、返還請求できます。

1. 利息制限法の趣旨
 利息は、金銭消費貸借契約の重要な契約内容の1つである(設問[1-4-1]参照)以上、基本的には近代民法の基本原則である「契約自由の原則」により、契約当事者間でその利率を自由に決定できるものです。しかしながら、貸す側と借りる側の立場の違いにより「借主の消費信用に頼らざるをえない窮迫の度合いが利息の度合いを規定する」という状況が現実に存在しておりまして、契約の自由にすべて任せておくことは契約当事者間に不平等をもたらし健全な資本主義社会の発展を阻害するのです。そこで、「利息制限法」は金銭消費貸借の利率の上限を、【1】元本10万円未満の場合は年2割【2】元本10万円以上100万円未満の場合は年1割8分【3】元本100万円以上の場合は年1割5分と定めるに至りました(利息制限法1条1項)。
2. 利息制限法違反の効力
 では、利息制限法(以下、法といいます)に定められた利率を超えた利率を契約で定めていた場合はどうなるのでしょうか。
 法1条によれば、「その超過部分につき無効とする」とあり、この規定は強行規定(契約当事者間での法律と異なる特約を許さない規定のことです)と解されますので、制限利率を超える部分についての貸主からの利息の支払請求については、これを拒絶することが出来ます。
 それでは、更に進んで、利率全体の無効は主張できないでしょうか。民法90条(公序良俗違反)違反になるのではないかが問題となります。そして、もし無効となる余地があるとすると、それは「暴利行為」ということになるでしょう。
 「暴利行為」とは他人の窮迫・軽率・無経験に乗じて不当な利益を売ることをいいますが、判例の中には出資法の限度(年109.5%ですが貸金業者は昭和58年の改正により75%から逐次40.004%間で下げられています)以上の高利が全体として無効になったことはありますが、必ずしも高利率ということだけが無効判断の基準になっているわけではなく、当事者の職業や金銭の利用目的など諸般の事情を考慮して判断しているようです。
3. 過払利息の返還又は残額元本への充当
 制限利率を超えた部分が無効なのは、あくまでまだ利息を払う前の段階であることから、本設問のように、既に支払ってしまった場合の処理が更に問題となります。
 この点については、法1条2項で超過部分の既払分については借主に返還請求権はないとされていますが、判例は「既払い超過利息といえども民法491条によって残存元本に充当しうる」(最判昭39・11・18)とし、更に「超過部分の元本充当により計算上元本が完済になった場合は、その後に債務の不存在を知らずに支払った金額は民法の原則どおり不当利得として返還請求できる」(最判昭43・1・13、同44・5・27)とまでしており、法1条2項は事実上削除されたも同様な状況となっています。
 但し、貸主が貸金業規制法の適用がある業者の場合には、同法43条のみなし弁済規定の主張をして借主の制限利率を超える利息支払の有効性を主張してくることが予想されます。その際には、同法17・18条にある書面が契約時に借主に交付されていることが必要ですし、判例もこの規定については適用を厳格に解していますので、安易にこれを認める必要はありませんので注意してください。

対応策

 甲社は一般消費者ではなく営利を目的とする会社であり、利率も出資法違反には至らない程度ですので、利率全体を暴利行為として無効とすることは出来ませんが、未払の利息分については利息制限法違反により支払を拒絶できるでしょう。
 更に、甲社は、法の範囲内であれば2年間で最高で1000万×0.15×2=300万円の利息を払えば足りるのにもかかわらず既に約1000万円の利息を支払っているので、超過分の約700万円は未払の元本に充当することが出来ます。そうすると、甲社の乙社に対する支払元本合計額は500+700=1200万円となりますので、甲社は乙社に対して200万円ほど支払いすぎているということになります。
 従って、甲社は、最終的には、乙社に対して200万円の不当利得返還請求が出来るということになります。

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