法律Q&A

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宅建業者の責任追及

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載

重要事項説明義務違反の宅建業者に対して、買主としてどのような責任を追求できますか。

甲社は、土地を購入するにあたり、宅建業者乙に緑に囲まれた閑静な場所であることを条件の一つとして挙げてきました。ところが、甲社が当該土地を購入した後、当該土地の周辺一帯には工場誘致計画が存在しており着々とその計画が進んでいることが発覚しました。甲社としては、どのような法的手段が取れるでしょうか。

甲社は、売買契約の無効や取り消しを主張して乙社に対し、損害賠償、報酬支払の拒絶、監督官庁への免許取消の申請等が可能です。

1. 重要事項説明義務の意義と内容
(1)重要事項説明義務
 宅地や建物を購入しようとする場合は、当該宅地・建物について担保権等第3者の権利がついていないか、いかなる公法上の規制があるのか等の知識・情報を必要とします。また、契約の解除や違約金、ローンの利用など取引条件の確認も必要です。取引の当事者となる者は一般にこうした知識・情報の調査能力を十分に持たず、かつ、十分な知識を持っていません。それゆえ、宅地建物取引業法(以下、宅建業法といいます)は、宅地建物の取引を専門に行う業者、すなわち、宅地建物取引業者(以下、宅建業者といいます)に対し、取引の相手方等に対して重要事項の事前説明を義務づけています(宅建業法35条)。

(2)説明の相手方
 宅建業者が直接売買・交換・貸借等の当事者となる場合はその相手方ですが、宅建業者が媒介をする場合は契約の各当事者です。通常は買主や借主となろうとする者に対し説明すれば足ります。

(3)説明の時期
 法文上は、「売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に」とされていますが、当事者が十分理解し、考慮する時間を置くべきですから、できる限り早い時期に行うべきでしょう。

(4)説明の方法
 宅建業者は、取引主任者(宅建業法15条)をして、重要事項を記載した書面を交付して説明させなければなりません。取引主任者は取引主任者証を提示して説明しなければならず(宅建業法35条3項)重要事項説明書に記名押印しなければなりません(宅建業法35条4項)。

(5)説明すべき事項
 説明すべき事項(重要事項)は宅建業法35条1項1号から11号まで列挙されていますが、列挙事項は最小限の事項であり、これら以外の事項でも重要事項として説明しなければならないものもあります。たとえば、仲介委託物件が緑に囲まれた閑静な場所であることが条件の1つである場合には、周辺の開発計画があり、それが実行されれば緑に囲まれた閑静な土地でなくなる恐れのある事は重要な事項に当たるものとされています(東京高判昭和53.12.11判時921.94)。

(6)説明義務と注意義務
 重要事項を説明するためには、宅建業者は重要事項について調査しなければなりません。重要事項説明義務は取引の構成や相手方の保護を目的として課せられてますので、専門的知識、経験を有する者である宅建業者には重要事項について注意し調査する義務があります。たとえば直近の不動産登記簿謄本をもって所有名義人を確認すべき(東京地判昭和59.2.24判時1131.115)ことはもちろん、現地調査、権利証、印鑑証明書等によって所有権の有無、所有者か否かを確認しなければなりません。代理人との契約に当たっては、宅建業者は代理人と証する者が持参した本人の実印、印鑑証明書等により調査確認しただけでは十分とは言い難く、代理権につき疑問を抱く余地のないような特段の事情が存在しない限り、本人に照会してその意思を確認し、不測の損害を及ぼすことの内容に配慮する必要があります(東京高判平成元.2.6金法1241.36)さらに、他人の者の売買に当たっては、通常の売買に比してより高度の注意を用いることを要し、売主の職業、信用度、所有者本人の売渡し意思の有無、所有者本人の委任状、印鑑証明書、権利書等を売主に提示させてその真偽を確認する等の措置を取る必要があります。又、登記簿上の所有者を確認するだけではなく、競売、仮処分、質権、抵当権、賃借権等の存否を調査確認すべき義務もあり、登記簿謄本さえも調査せず、抵当権等担保権の種類、内容を説明する義務を怠れば最小限の注意義務も果たしていないとされますし(大阪地判昭和57.9.22判タ486.109)都市計画法、建築基準法その外の豊麗に基づく制限についても調査し説明しなければなりません。その外にも、原則として、取引相場価格の調査をなし、依頼者の利益となるような売買条件の策定に向けて努力する義務を負いますし、(東京地判平成元.2.29判時1344.145)、公道に接しない宅地の仲介に当たっては、私道の通行承諾があり通行に支障がないことを近隣者や私道所有者に問い合わせて調査する義務もあります(大阪高判昭和61.11.18判タ642.204)。

2. 重要事項説明義務違反の効果
 宅建業法は行政取締法規ですが、重要事項説明義務は、立法目的からその違反は私法上の義務違反です。宅建業者と仲介契約を締結してるときは、宅建業者は、依頼者に対し民法上の準委任契約に基づく善管注意義務を負っており、その義務違反の責任を問いえます。

(1)契約の解除
 仲介契約(媒介契約)は準委任契約と解されていますので、委託者はいつでも媒介契約を解除することができます(民法656・651条)。しかし、実際は、約款によって修正されていることがほとんどです。更に、宅建業者の説明義務違反(注意義務違反)が債務不履行に当たるときは、債務不履行を理由に媒介契約を解除することが考えられます(民法541・543条)。現在の媒介契約約款には債務不履行解除条項が規定されています(媒介契約約款15・16)。

(2)損害賠償
 債務不履行に基づく損害賠償請求が可能です(民法415条)。損害賠償の範囲は、宅建業者の義務違反と相当因果関係のある損害です。従って、取引不動産の時価相当額を損害と認められることはまれで、通常、現に出損した金額などが損害と認められます。

(3)報酬請求権の不発生
 仲介業者に対する報酬は本来その仲介義務の履行行為とそれ基づく成果に対する対価というべきものですので、仲介行為そのものに仲介業者としての義務を履行したといえない瑕疵があり、その瑕疵が原因となって、締結された契約(売買契約や賃貸借契約等)に当初から内在する瑕疵が生じ、当該契約が無効となり、取り消され又は解除されたような場合には、仲介業者の報酬請求権が発生しません。

(4)不法行為責任
 宅建業者は、媒介契約を結んでいない第3者に対しても注意義務を負うことがあります。この場合、宅建業者に不法行為による損害賠償責任が認められます。

(5)行政責任
 建設大臣、都道府県知事は、宅建業者に対し指導、助言、韓国(宅建業法71条)、報告を求めることや立ち入り検査をすることができます(宅建業法72条)。宅建業者が取引関係社に損害を与えたときやその恐れがあるとき、取引の公正を害する恐れがあるとき、法令に違反したときなどの場合、建設大臣又は都道府県知事は、必要な指示、一年以内の業務停止を命ずることができ(宅建業法65条)、法令違反の程度が著しかったり、著しく不当な行為を行い、情状が特に重いときは免許を取り消すことができます(宅建業法66条)。

(6)刑事責任
 宅建業者は、一定の場合に刑罰(懲役もしくは罰金)を受けます(宅建業法79条以下)。たとえば、重要な事項を故意に告げず、又は、事実と異なることを告げた場合にも、刑事責任を問われることがあります(宅建業法80条)。

対応策

本設問の場合、工場誘致計画が進んでいることを乙が甲社に説明しなかったことは、判例に照らしてみれば、重要事項説明義務違反になります。従って、甲社とすれば、債務不履行に基づく損害賠償が可能ですし、自らが締結した本件土地の売買契約の錯誤無効を主張して報酬の支払いを拒否し、既払の場合には返還請求が可能です。あまりに乙の行為が悪質な場合は、建設大臣又は都道府県知事に乙の業務停止や免許取り消しをするように求めて提訴したり、刑事告訴もすることもできます。

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