法律Q&A

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M&Aと賃貸借

弁護士 近藤 義徳
1997年4月:掲載

M&Aで会社の経営権を別の会社に譲ろうとしたところ、賃借り中の店舗の家主から無断譲渡に当たると言われたが、どうしたら良いか?

Y社はXから店舗用建物を賃借して営業していたところ、Y社の株式のほとんどを所有するAは、Bに株式を譲渡し、BがY社のオーナーになりました。すると、Xは実質的な借り主がAからBに代わったことになりますから、賃借権の無断譲渡だとして賃貸借契約の解除を主張しています。借り主はY社であることに何の変化もないと思うのですが、この場合も賃借権の譲渡に当たるのでしょうか。

最高裁は、無断譲渡に当たらないとしています。

1.賃借権の譲渡制限
 建物賃借人は、家主の承諾がなければ賃借権を譲渡することができません(民法612条1項)。もし、家主に無断で賃借権を譲渡すると、家主から借地契約を解除されて賃借権を失ってしまう危険があります(民法612条2項)。
2.賃借権の譲渡
 賃借権の譲渡とは、賃借権の主体が交代することですから、賃借人たる会社が営業譲渡等によって建物賃借権を他の会社や個人に移転するときは、賃借権の譲渡にあたることは明らかです。
 ただ、この場合でも、個人からその個人の経営する会社に賃借権の主体が交代したときについては、「譲渡人と譲受人間に密接な関係があり、使用している主体が実質的には同一と見られる場合は」、賃借権の無断譲渡が賃貸人・賃借人間の信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があるとして、民法612条による解除が否定されます(最判昭39.11.19民集18 ー9ー1900)
3.M&Aと賃借権
 以上に対して、M&Aによって賃借人たる会社の株主や役員が代わった場合には、外形的・形式的に賃借人である会社の法人格に変動はありませんので、「譲渡」となるか否か議論があります。
 この点、下級審の判例も、賃借権の譲渡に当たらないとするものと(東地判平3.9.30金法1317ー24等)、小規模な閉鎖会社は譲渡に当たるとするもの(東高判平5.12.15判タ874-210等)、とに別れていました。
 ところが、最近、最高裁は、右東京高裁の判決を破棄して、次のとおり賃借権の譲渡に当たらないと判断しました。
 すなわち、「民法六一二条・・に言う賃借権の譲渡が賃借人から第三者への賃借権の譲渡を意味することは同条の文理からも明らかであるところ、賃借人が法人である場合において、右法人の構成員や期間に変動が生じても、法人格の同一性が失われるものではないから、賃借権の譲渡には当たらないと解すべきである。そして、右の理は、特定の個人が会社の経営の実権を握り、社員や役員が右個人及びその家族、知人等によって占められているような小規模で閉鎖的な有限会社が賃借人である場合についても基本的に変わるところはないのであり、右のような小規模で閉鎖的な有限会社において、持分の譲渡及び役員の交代により実質的な経営者が交代しても、同条に言う賃借権の譲渡には当たらないと解するべきである。」としたのです(最判平8.10.14判時1586ー73)。
 これによって、民法612条の「譲渡」について、一応の解釈の統一が図られたと言えるでしょう。しかし、この判例も、賃借権者たる法人の法人格が全く形骸化しているような場合には、M&Aによって賃借権の譲渡になる場合があることを示唆しています。

対応策

(1)賃借権の譲渡に当たらないことの主張
 前述のとおり、最高裁は、賃借人たる会社の法人格が全く形骸化している場合を除いて、M&Aによって経営権を他に譲渡しても、賃借権の譲渡とはならないとしましたので、賃貸人にその旨説明して理解を求めるべきです。

(2)賃借権の譲渡となる場合
 仮に会社の法人格が形骸化していて賃借権の譲渡に当たる可能性があるときは、賃貸人の承諾を得ておくべきです。
 借地権の譲渡の場合は、地主の承諾に代わる許可の裁判の制度がありますが(借地法9条ノ2、借地借家法19条)、建物賃借権の譲渡の場合にはそのような制度がありませんので、予め賃貸人の承諾を貰っておくことが是非とも必要になります。
 なお、その際、家主から承諾料を求められることもありますが、相当な金額であればやむを得ないかもしれません。

予防策

建物を賃借している会社が、M&Aによって経営権を委譲しようとする場合の殆どは、賃借権の譲渡に当たらないと思われますが、予め賃貸人に説明して承諾を貰っておくと、M&Aも無難に進められるでしょう。

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